旭川いじめ報告 悲劇を繰り返さぬ礎に(2024年9月14日『北海道新聞』-「社説」)

 旭川市で中学2年だった広瀬爽彩(さあや)さんがいじめを受け凍死して見つかった問題で、再調査委員会(尾木直樹委員長)による報告書が公表された。
 再調査委は2カ月前の概要発表でいじめと自殺の因果関係を認定したが、今回は自殺に至る事実関係の詳細などを示した。
 広瀬さんは2019年の入学後、特徴的な行動がクラスで笑われるなどした上、校外で性的いじめも受け、心に深い傷を負って1年半余り苦しめられた。文面から広瀬さんの恐怖心や孤立感、悲しみが迫ってくる。
 臆測や誤情報をなくしたいという遺族側の要望で、プライバシーに当たる情報も明らかにされた。無念の死から3年半を経て完成した報告書の重みをかみしめ、教訓とせねばならない。
 問題を巡っては、学校や市教委が必要な対応を怠り、市教委の第三者委員会の当初報告もいじめと自殺の因果関係を不明とした。遺族は納得できず、今津寛介市長が再調査に乗り出す異例の経緯をたどった。
 再調査委は第一線の専門家で構成された。心理学や精神医学の観点から先進的分析を行い、第三者委が認めなかった校内のいじめを含む7件を認定した。
 悲劇的だったのは校内でのいじめで疎外感を深めた広瀬さんが他の人間関係に救いを求め、その先で性的な写真の送信を強要されるなどしたことだ。これは性暴力に他ならない。
 いじめがトラウマとなって心的外傷後ストレス障害PTSD)を発症し、自殺リスクを高めたとの指摘も重要である。
 症状は時とともに悪化した可能性があり、自殺がいじめの直後でないことを理由に影響を低く見積もることは正当ではないとした。教育界はいじめの行為だけを見ずに、被害者の心身の苦痛に寄り添う必要がある。
 報告書は多岐にわたる再発防止策も提言した。全国の教育現場で活用できる内容である。
 政府にも注文を付けた。性教育については現行の学習指導要領で「妊娠の経過は取り扱わないものとする」などとする「歯止め規定」を撤廃し、科学的かつ人権尊重の視点に立った包括的性教育の実践が急務とした。
 性交を含め生命の誕生に関する正しい知識を教えなければ、ネット上の有害な性情報から子どもを守れない。政府は真摯(しんし)に受け止めてもらいたい。
 問題発覚後、学校や市教委の事なかれ主義の対応が批判された。なぜいじめを防げず、自殺との因果関係も認定できなかったのか。悲劇を繰り返さぬため、自ら検証する必要があろう。