大雨で冠水した道路=21日午前10時44分、石川県珠洲市役所前で(高橋信撮影)
◆「川の中を歩いているようだった」
同団地は洪水の浸水想定区域内にある。だが、山地が多い能登半島では仮設住宅の用地確保が難しく、やむを得ず危険を伴う地域に建設された経緯がある。輪島署によると、住民は自力で避難したり、署員に救助されたりして無事だった。
住民の塗師・永井充さん(66)は「朝に仕事で家を出た時は浸水していなかったが、前の見えない雨で川の中を歩いているようだった」と振り返る。仕事を終えた夕方は仮設に近づけず、近隣の避難所に向かった。「仮設がどうなっているか非常に心配。なんで地震で大変なところに洪水まで…」と肩を落とした。
◆「津波の時より泥だらけ」「買い直した機械が…」
大雨被害は復興を阻みかねない。元日の地震で津波被害を受けた珠洲市宝立町春日野で「リビングショップとね建築板金」を営む刀祢喜春さん(50)は、磐若川の氾濫によって再び浸水被害を受けた。なりわい再建支援の補助金も活用して5月に1000万円以上を投じて買い直した機械や電動工具が再び水に漬かった。「まだ支払いも終わっていないのに、お先真っ暗だ」と落胆した。
刀祢さんは元日の地震で自宅が全壊。現在は仮設住宅に入居している。鉄骨造りの店は崩落しなかったが津波をかぶった作業用の機械が壊れた。この日昼前、氾濫で一帯が水浸しになり店も数十センチ~1メートルほど浸水しているのを目にした。
◆農産物の被害は予測もつかず
収穫期を迎えた農業被害も深刻だ。輪島市町野町佐野を拠点にコメを生産している「川原農産」の川原伸章社長(47)は事務所の様子を見に行ったところ、近くのため池が決壊し濁流が押し寄せてくるのを目撃した。「これはやばいと思って急いで高台に避難した」という。確認できただけでも、収穫前の田んぼの一部が冠水して水浸しになり、山からの土砂が堆積していたといい、「収穫は不能。売り上げの基となる農産物の被害が予想もできない」と話した。