6月の討論会では、バイデン大統領(81)が高齢不安を露呈。選挙戦からの撤退を余儀なくされるなど、その発言やパフォーマンスは今後の選挙戦を大きく左右する。(鈴木龍司、浅井俊典)
◆ハリス氏はスキャンダル・中絶・経済などを追及へ
ハリス氏はこれまで、2021年1月の連邦議会襲撃事件を招き、不倫口止め料事件で有罪評決を受けたトランプ氏を「犯罪者」と批判してきた。「あらゆる犯罪者と対峙(たいじ)してきた」とアピールする検事の経験を生かし、視聴者の前で鋭く迫る戦略だ。
民主党大統領候補の指名受諾演説をするハリス氏=8月(鈴木龍司撮影)
人工妊娠中絶の権利を巡る議論も攻撃材料の一つ。トランプ政権時代に連邦最高裁の判事が保守化した影響で、各州に中絶禁止が拡大。保守層の一部にも不満が出ていることから、これまでも「トランプ氏は民主主義や自由を脅かす存在」と印象づけてきた。
ハリス氏はまた、バイデン政権の政策を引き継ぎ、中低所得者層への減税を看板公約に掲げ、トランプ氏の経済政策を「億万長者優遇」と批判。その違いを鮮明に打ち出すよう心がけてきた。
◆トランプ氏は政治手腕・リーダーシップへの疑念あぶり出しへ
一方、ハリス氏を「愚か者」と呼び、挑発を続けるトランプ氏は、政治手腕やリーダーシップへの疑念をあぶり出す戦術を重視。
共和党大統領候補の指名受諾演説に臨むトランプ氏=7月(鈴木龍司撮影)
ハリス氏が民主党の予備選を経ずに大統領候補になった過程や、バイデン氏の公約をそのまま踏襲したことはそのまま追及材料になっている。さらに、バイデン政権下でハリス氏が中心を担った不法移民対策は世論の批判が強く攻めどころだ。
また、ロシアのウクライナ侵攻やイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘は解決の糸口が見えず、軍事支援の負担を含め、国内には「戦争疲れ」の空気が漂う。有権者の関心が高いインフレも、戦争の長期化と関係している。
「米国第一主義」に回帰する必要性を説き、自分こそが外交にも経済にも強い大統領候補だと視聴者に訴えるのが狙いだ。
◆討論会のルール、直前まで神経戦
討論会の質問は事前通告がなく、メモの持ち込みも禁止されるため、攻守にわたって瞬発力が求められる。今回の討論会に向けては、ハリス陣営が相手の発言中もマイクを切らないルールを主張。トランプ氏の不適切発言を引き出す狙いがあったとみられ、トランプ氏が一時、参加の辞退をほのめかすなど、直前まで神経戦が続いた。
◆表情やしぐさが結果に大きな影響も
大統領候補討論会は、テレビやインターネットを通じて全米に生中継され、国民の関心の高いさまざまな政策について議論をぶつけ合う選挙戦終盤の重要イベント。何を語るかも重要だが、過去には表情やしぐさが選挙戦の流れを一変させることもあった。
討論会が初めてテレビ中継されたのは、政治経験豊富な共和党のニクソン氏と民主党のケネディ氏の大接戦となった1960年。病み上がりで青白い顔のニクソン氏がハンカチで汗をぬぐうなど疲れた様子を見せたのに対し、万全のメークで臨んだケネディ氏は若く活力あふれる印象を与え、勝利につなげた。
2000年の共和党のブッシュ(子)氏と民主党のゴア氏の対決では、政策通のゴア氏がブッシュ氏の発言中に何度も大きなため息をつき、首を振る姿が映された。これが「傲慢(ごうまん)で相手を見下している」と批判され、敗北につながったとされる。
◆威圧、妨害、中傷…近年の討論会では何があった?
2016年の討論会では、トランプ氏が発言中の民主党ヒラリー・クリントン氏の背後に近寄るなどして威圧。選挙で敗れたヒラリー氏は回顧録で「信じられないほど不快で、鳥肌も立った」と振り返った。
バイデン氏とトランプ氏の対決となった前回2020年は、発言妨害や中傷が相次ぎ「史上最悪」の討論会と批判された。
今年6月、両氏の再対決で、バイデン氏は支持率回復を狙ったものの、テレビに映った表情は生気に乏しく、声がかすれて間違いも連発。後日、疲労や風邪で「体調が悪かった」と弁明したが、アメリカ史上最高齢の大統領に対する健康不安が再燃して民主党内の求心力を急速に失った。