米大統領選は民主党のハリス副大統領が党の候補に確定し、100日足らずの異例の短期決戦が本格的にスタートした。高齢不安を払拭できなかったバイデン大統領の後を受けたハリス氏の追い上げムードに対し、共和党のトランプ前大統領とその陣営には焦りがにじむ。両者の支持率は拮抗(きっこう)し、激戦州の動向が勝敗の鍵を握る。(ワシントン・鈴木龍司)
◆打倒トランプ氏、結束呼びかけ
カマラ・ハリス米副大統領(資料写真)
「私たちはすべての米国人にとっての自由と正義を信じている」。ハリス氏は2日、オンラインのイベントで、今回の選挙は「情熱と自由の国」か「混乱と恐怖、憎しみの国」かの選択になると訴え、打倒トランプ氏への結束を呼びかけた。
6月末のテレビ討論会が不調に終わったバイデン氏の進退問題に揺れた民主党。支持率が低迷したバイデン氏が撤退を決断すると、重苦しい雰囲気は一変し、短期間のうちにハリス氏支持で再結集した。
女性初の大統領を目指すハリス氏は選挙戦で、人工妊娠中絶の権利擁護など人権分野に焦点を当て、独自色を打ち出している。「自由のない時代に戻してはいけない」とトランプ氏をけん制し、米メディアによると、選挙資金の献金をトランプ陣営の2倍以上のペースで集めている。草の根のボランティアも飛躍的に増やし、勢いに乗る。
◆支持率肉薄、挑発強めるトランプ氏
トランプ前大統領(資料写真)
世論調査の支持率でも、先行していたトランプ氏との差を縮めている。政治サイトのリアル・クリア・ポリティクスによると、8月2日時点の支持率平均は1.2ポイント差まで肉薄。バイデン氏は撤退直前に3.1ポイントの差を許し、勝敗を左右する激戦州の全7州で負けていた。ハリス氏は中西部ミシガン州で逆転し、残りの6州でも追い上げている。
こうした状況を受け、バイデン氏の高齢不安への攻撃に注力してきたトランプ陣営は戦略の見直しを迫られている。トランプ氏は新たにライバルとなったハリス氏を「頭のおかしいリベラル」などと挑発。ただ、人種差別的な発言で逆に批判を浴び、共和党内にも自重を促す声が出ている。
◆予備選を経ない候補指名の手続きに…
一方のハリス氏にも泣きどころはある。予備選を経ない候補指名の手続きに対し、黒人差別の撤廃を訴える「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大事だ)」運動の関連団体は、「民主主義の原則を無視している」と抗議。トランプ陣営も「予備選でバイデン氏を選んだ民意を無効にした民主党は、民主主義とは正反対だ」と非難している。
トランプ氏を狙った銃撃事件の後、バイデン氏が撤退を決める波乱が続き、ようやく対決の構図が固まった大統領選。選挙アナリストのジェイコブ・ルバシキン氏は「現代の米国政治で、ここ数週間の出来事は歴史的な瞬間だった」と語り、「結果として前代未聞のスプリント(短距離走)になった」と指摘する。
ハリス氏は今後、副大統領候補の発表と民主党大会(19日開幕)を控える。ルバシキン氏は「勢いがあり、話題を独占できるこの期間に、どこまで支持を伸ばすかが大勢を決するポイントになる」と見通した。