障害者の鑑賞サポート 共に楽しむ機会広げたい(2024年9月7日『毎日新聞』-「社説」)

 

舞台の進行にあわせて音響室からリアルタイムで音声解説をナレーションする劇団員の菅原ゆうきさん=兵庫県立ピッコロ劇団提供

舞台の進行にあわせて音響室からリアルタイムで音声解説をナレーションする劇団員の菅原ゆうきさん=兵庫県立ピッコロ劇団提供

 視覚や聴覚など身体に障害がある人たちが映画や演劇を劇場で楽しめるよう、鑑賞をサポートするサービスが広がりつつある。

 障害者差別解消法の改正で、今年4月から民間事業者にも障害者のバリアーを取り除く「合理的配慮の提供」が義務化され、取り組みが進んだ。

 たとえば、目の不自由な観客に、事前に舞台の配置を説明したり、上演・上映中に場面や俳優の動き、表情を音声ガイドで解説したりすることで理解を助ける。

 聴覚障害がある人には、字幕を表示するタブレットを貸し出す。舞台上での手話通訳や、補聴器などに音を伝える特別な機器を導入する劇場もある。

 日本劇団協議会が今年5月、加盟団体に調査したところ、回答した45団体のうち7割以上が鑑賞サポートを実施していた。

 とはいえ、民間の事業者にとって負担は小さくない。「できる限りのことはしたいが予算的に厳しい」「助成金がないとサポートが最低限になる」といった声が寄せられた。

 東京都などは今年、鑑賞サポートへの助成制度を創設した。映画や演劇だけでなく、美術、茶道、華道など幅広い分野が対象だ。サービスの広がりを期待したい。

 障害者スポーツの祭典、パリ・パラリンピックは連日熱戦が繰り広げられている。来年は耳の不自由なアスリートのためのデフリンピックが東京で開催される。

 共生社会の実現は、文化芸術分野だけでなく、スポーツにとっても大きな課題だ。競技場にいながらスマートフォンで実況が聴けるなど、障害者が観戦を楽しめる取り組みに力を入れるべきだ。

 サポートを必要としているのは障害者だけではない。小さな子どもがいる人たちのための託児サービスの整備や、外国人に向けた多言語対応なども求められる。事業者間のノウハウの共有や人材育成も重要だ。

 デジタル時代になり、オンラインによる鑑賞や観戦も可能になった。ただ、大勢の観客と一体となるリアルな経験は、何物にも代えがたい。

 誰もが芸術やスポーツに親しめる環境の整備は、より豊かな社会の実現につながるはずだ。