介護に関する社説・コラム(2024年9月5日)

介護職場の環境改善で高齢期の安心を(2024年9月5日『日本経済新聞』-「社説」)
 
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介護職員がやりがいを持って働き続けられる環境整備を急ぎたい
 厚生労働省がこの夏、今後必要になる介護職員の推計を公表した。2026年度に240万人、高齢者人口のピーク時期に近い40年度には272万人が必要になるという。足元の職員数は215万人(22年度)で、それぞれ25万人、57万人も増やす必要がある。
 良質な介護サービスは、高齢期の暮らしの安心に欠かせぬインフラだ。人手不足は長年にわたり続いている。職員がやりがいを持って働き続けられるよう、あらゆる工夫を急がねばならない。
 まずは処遇改善だ。仕事の負担や責任の重さに待遇が追いついていない。4月からの3年に1度の介護報酬改定は全体ではプラス改定となったが、どこまで底上げできているのか。しっかり検証し、着実に改善を進めるべきだ。
 個々の事業者もコスト構造を変える経営改革に取り組み、より大きな賃上げを目指してほしい。
日々の業務負担を軽減することもカギを握る。見守りに使うセンサーや介護ロボットなど便利な技術を積極的に生かしたい。
 一方、国内の人口減が進むなかで大きな期待が寄せられているのが、外国からの人材だ。政府は特定技能や技能実習在留資格の外国人が今後、訪問介護にも携われるようにする方針だ。今は介護福祉士の資格取得が必要で、人数は少なかった。
 ただ、自宅で1対1でケアにあたる訪問介護は、施設での介護とは違った難しさがある。高齢者と日本語でコミュニケーションを取りながら、一人ひとりの生活状況や健康状態に合わせた対応が求められる。十分な研修と支援、相談体制を整えることが、介護職と利用者双方のために欠かせない。
 そもそも、介護人材を求める声は高齢化が進む他の国でも高まっている。日本は選ばれる国になれるのか。日々の生活支援も含め、きめ細かい対応が大切だ。
 介護の魅力を高め、安心して働ける環境を整える。この大切さは、日本人であっても外国人であっても変わらない。ましてや利用者からのハラスメントなどがないようにすることは必須だ。
 介護人材の不足は、高齢期の暮らしを揺るがすだけではない。親の介護のために仕事を辞めたり減らしたりする人や、ヤングケアラーとなり学業に影響したりする子どもを増やしかねない。若い世代の将来をも左右する。対策は待ったなしだ。