介護報酬 プラス改定で賃上げを着実に(2024年3月21日『読売新聞』-「社説」)


 高齢化が進み、介護の需要はますます膨らんでいくのに、介護人材の不足は深刻だ。サービスの量と質を拡充するため、介護職員の賃上げや負担軽減を図っていく必要がある。

 4月からの介護報酬改定の内容が決まった。今後3年間の介護保険サービスの料金体系となる。

 政府は昨年末、介護報酬全体を1・59%引き上げることや、このうち0・98%分を介護職員の賃上げに充てる方針を決めている。

 これを踏まえた具体策として、処遇改善に取り組んだ事業者が受け取る介護報酬の加算率を引き上げる。この措置により、政府は、介護職員の基本給を2024年度に2・5%、25年度には2%底上げできると見込んでいる。

 介護職員の平均給与は月額約29万円で、全産業の平均を約7万円下回っている。高齢者と接する責任の重さの割に賃金水準が低いことが、人材不足の一因だ。

 「団塊の世代」がすべて75歳以上となる25年には、介護職員は約32万人足りなくなると想定されている。処遇の引き上げを、人材確保につなげていきたい。

 人手不足は、訪問介護事業者の経営に悪影響を及ぼしている。東京商工リサーチによると、昨年の訪問介護事業所の倒産件数は過去最多の67件だった。厚生労働省の抽出調査でも、訪問介護事業所の4割近くが赤字だった。

 訪問介護のヘルパーを確保できないため、高齢者宅への訪問回数を減らさざるを得ず、経営が不安定になる事業者も目立っている。政府は、人材不足への対応を事業者任せにしてはならない。

 介護施設で働く外国人労働者は増えつつあるが、政府は高齢者の自宅で行う訪問サービスでの外国人就労を認めていない。言葉の壁に加え、1対1になる状況ではハラスメントなどが起きかねないという懸念があるためだ。

 訪問入浴など、日本人を含む複数の職員がかかわる場合には、外国人材を活用していくことを考えてもいいのではないか。

 政府は、介護の現場でのICT(情報通信技術)の活用を促している。今回の改定で、高齢者の寝返りや転落を検知する見守りセンサーなどを設置した事業所に報酬を加算することを決めた。職員の負担を軽減する狙いがある。

 介護ロボットなど先端技術を活用することで、高齢者3人に対して原則1人の職員を配置するという現在の国の基準を緩和してはどうか、との意見もある。将来的な検討課題となるだろう。