万博中のIR工事 博覧会国際事務局長「6月に初めて聞いた」 調整不調ならIR撤退も(2024年8月25日『産経新聞』)

 

2025年大阪・関西万博の開催期間中に隣接地でカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の建設工事が行われる問題をめぐり、博覧会国際事務局(BIE)のディミトリ・ケルケンツェス事務局長が25日までに産経新聞の書面インタビューに応じた。同氏は「万博の安定的な運営に深刻な問題」と懸念を示し、万博の成功が最優先との考えを強調した。調整が不調に終わればIR事業者が撤退する可能性もあり、大阪府市が進めてきたIR計画は厳しい局面に立たされている。

日本国際博覧会協会側は府市側に工事の中断を求めている。ケルケンツェス氏は今月末に来日する予定で、政府や万博協会幹部らとこの問題を話し合うとみられる。

同氏は来日前に応じた産経新聞のインタビューで「(IRの本格的な)工事が来年4月に始まる事実を、6月に奈良で初めて知らされた」と明かし、IR建設をめぐる日本側との意思疎通が極めて不十分だったことを示唆した。

また、同氏は「(日本側は)2019年から『万博運営に対するどのような障害も起こさないようIRの工事を管理する』と約束してきた」とも指摘。この約束がほごにされかねないとの危機感を強くにじませた。

同氏や万博協会の十倉雅和会長(経団連会長)らが万博期間中のIR建設工事の中断を求めていることが報じられたのは今月上旬。万博中もIRの工事が行われることは、万博とIRの予定地である夢洲(ゆめしま)(大阪市此花区)の開発関係者には周知の事実だったが、なぜ今になっての中断要請なのか。

協会幹部は「府市に対しIR工事による万博への影響を示す資料を出すように求め続けて、5月下旬にようやく出てきた」と打ち明ける。その資料を十倉氏や、6月に来日したケルケンツェス氏に提示したところ、2人から強い批判を浴びたという。

資料に書かれているのは「(IR建設工事の)騒音・振動レベルを整理中」「(会場からの)クレーン等の見え方について整理中」などの文言。整理中とは、まだ調査中ということだ。

府市の担当者は「万博会場の大屋根(リング)からの景観への影響も協会から尋ねられたが、リングができていなかった段階でどう調べればよかったのか」と嘆く。

ただ、これでは「万博運営にどのような支障もきたさない」という日本の約束に反しているというのがBIE側の認識だ。一連の混乱は日本側の調整不足が招いた可能性が浮かび上がる。

難しい立場に置かれるのは、公募で選ばれ、1兆円以上の初期投資を行う計画のオリックスや米MGMリゾーツ・インターナショナルなどIR事業者と出資企業だ。

IR事業関係者は「工事を中断するとなれば、万博期間の半年だけではなく(その前後も合わせ)1年以上止まるだろう。完成が遅れるだけでなく数百億円の損失が出る」と打ち明ける。その上で「われわれは、万博期間中も工事を続ける前提で国に申請を行っていた。何の落ち度もない」と憤った。

IR建設をめぐって、事業者側は契約を一定条件で解除できる権利を持つ。多額の損失や計画の遅れを余儀なくされれば、彼らが撤退する恐れも否定できない。(黒川信雄)