ハリス米副大統領=16日(ゲッティ=共同)
【シカゴ共同】18日付の米紙ワシントン・ポストは11月の大統領選で民主党候補のハリス副大統領(59)と共和党のトランプ前大統領(78)が一騎打ちとなった場合、ハリス氏の全米支持率は49%で、トランプ氏の45%を4ポイント上回ったとの世論調査を発表した。民主党はバイデン大統領(81)からハリス氏への候補交代で支持を伸ばしている。
世論調査は8月9~13日にABCテレビや調査会社イプソスと共同で有権者1975人を対象に実施した。ハリス陣営は19~22日に中西部イリノイ州シカゴで開かれる民主党大会で結束を固め、勢いを維持したい考え。
ハリス、トランプ両氏のほか無所属の弁護士ロバート・ケネディ・ジュニア氏(70)ら第3の候補も選択肢に含めた調査でもハリス氏は支持率が47%で首位、トランプ氏は44%、ケネディ氏は5%だった。
バイデン氏が撤退表明する前の7月上旬の調査ではトランプ氏43%、バイデン氏42%、ケネディ氏9%だった。
ハリス氏が経済政策を発表:物価の安定と中間層支援をターゲットに(2024年8月19日『NRI』)
NRI研究員の時事解説
物価の安定と中間層支援をターゲットに
NRI研究員の時事解説
民主党大統領候補のハリス氏は8月16日、激戦州ノースカロライナで具体的な経済政策を初めて打ち出した。ハリス氏は自身の経済政策を「機会の経済(opportunity economy)」と呼び、「誰もが競争し、自身と子供のために富を築く機会を得て成功する真のチャンスを得ることができる経済を目指す。それを阻む障壁を取り除く」といった主旨の主張を展開した。機会均等、機会平等の原則を重視する考えだ。
ハリス氏が経済政策の主たるターゲットにしたのは、物価の安定と中間層支援である。これは、バイデン大統領が物価高騰の責任を国民から問われ、物価高問題が選挙で民主党の逆風になってきたことを強く意識したものだ。選挙戦略としては妥当なものだろう。さらに、経済的実利がより重視されるラストベルト(錆びた地帯)を含む激戦州での支持を広げる狙いがある。
物価問題については、不当な値上げで不当に利益を上げる企業に値下げを迫るものだ。不当に価格を吊り上げる企業に規則を設け、従わない企業に罰則を与えるなど、物価安定に向けた強い政策方針を示している。
これは、追加関税の導入を通じて企業を支援するトランプ氏の政策方針とは対照的なものであり、企業に対して厳しい政策だ。他方、ハリス氏は貿易政策やエネルギー政策については語らず、物価の安定と中間層支援に集中した。
課題はあるが選挙戦には有利に働くか
ハリス氏が掲げる経済政策は、トランプ氏が指摘するように価格統制色を帯びており、市場メカニズムを歪める恐れもある。不当な値上げを明確に定義し、見分けることも難しい。そもそも物価上昇率は落ち着いてきており、あえて統制色が強い政策を実施する必要はないのかもしれない。
またハリス氏が打ち出す子供税額控除などの中間層支援策は、財源があいまいで財政赤字を拡大させる恐れもある。さらに、大統領選挙で勝利しても、議会で民主党が両院を制さないと実現できない政策も多く、その実現可能性に疑問も残るところだ。
ただし、大統領選挙まで時間が限られるハリス陣営にとって、国民の支持を得るために、経済政策面で強いメッセージを打ち出す必要があることは確かだ。経済政策では、バイデン大統領はトランプ氏に大きく後れをとってきたが、ハリス氏が短期間でその劣勢を挽回するために打ち出した今回の経済政策は、選挙戦に一定の成果をもたらす可能性があるだろう。
4つの具体策
以下では、ハリス氏が示した経済政策を、1)価格安定策、2)住宅促進策、3)児童・低所得層税控除、4)医療費支援 の4つの分野についてそれぞれ詳細を見てみたい。
1)価格安定策
ハリス氏は、大統領就任後の最初の100日で物価を引き下げると宣言した。食品企業による不当な値段のつり上げを禁止する連邦法の成立を支持し、アルゴリズムを使った不当な賃料「調整」を禁止する連邦法の成立を促す。価格競争を弱める可能性のある企業の合併・買収にも監視の目を強める。
ハリス氏は一部の大企業による利益重視の姿勢に物価高騰の原因があるとし、特に大手食料品店チェーンは過去20年で最高の収益を生み出していると批判した。企業が「過大な利益」を出せないよう規則を設け、従わない企業に罰則を与える権限を米連邦取引委員会(FTC)に与える方針を示している。
アメリカではすでに多くの州が便乗値上げ禁止の制度を設けており、ハリケーンなどの緊急時に導入される。ただし、何を不当な値段つり上げと規定するのか難しい面もある。
2)住宅促進策
大統領の任期の4年間で300万戸の住宅建設を目指す。バイデン大統領が掲げた200万戸から拡大する。また、若い世帯が最初に購入する安価な「スターター住宅」の建設会社を税優遇で支援し、住宅開発支援などに充てる基金を400億ドル(約5兆9,000億円)に倍増する。
初めて持ち家を購入する人に、頭金2万5千ドル(約370万円)を支給する。これは4年間で推定400万世帯が対象になり得ると、ハリス陣営は試算している。
他方で、住宅を大量に購入する投資家への税制優遇を撤廃する法案の成立も目指す。ハリス氏は「何百もの住宅を購入し、極端に高い値段で貸し出している企業がある」、「アメリカン・ドリームを阻害する」と批判した。
3)児童・低所得層税控除
最大3,600ドルの児童税額控除の復活に加えて、新しく子供が生まれた家庭へ1年間で最大6,000ドル(約89万円)の税控除を行う。パンデミックの渦中で連邦議会が一時的に子供1人当たり最大3,600ドルの税控除を実施したが、その後は延長されなかった。
また低所得層の所得税控除を最大1,500ドルとする。ハリス氏は、これにより「1億人以上の税負担が軽減される」と強調した。
4)医療費支援
糖尿病治療薬インスリンの月額薬価を上限35ドル(約5,200円)に定めるほか、医療費支払いのための借金を帳消しにする。バイデン政権が進めてきた薬価引き下げも継続する。
(参考資料)
「新築住宅促進、食品の便乗値上げ規制……ハリス副大統領、経済公約示す」、2024年8月17日、BBC News
「ハリス氏、中間層支援鮮明 安価な住宅建設に税優遇 食品価格つり上げ「禁止法」(米大統領選2024)」、2024年8月18日、日本経済新聞
「ハリス氏、南部の激戦州で経済公約 16年ぶり奪還へ布石」、2024年8月17日、日本経済新聞電子版