証券取引等監視委員会は市場での疑わしい取引に目を光らせている
不正な株取引/監視役までが手を染めた(2024年11月20日『神戸新聞』-「社説」)
合併や買収など、上場企業の重要情報を公表前に入手して株式を売買するインサイダー取引は金融商品取引法で禁じられている。確実に利益を上げられるので、情報を入手できない一般の株主との間に不公平が生まれるからだ。株式市場への信頼にも関わる。
その趣旨を十二分に理解し、違法行為に目を光らせねばならない金融庁の職員と東京証券取引所の社員が、相次いでインサイダー取引の疑いで証券取引等監視委員会の強制調査を受けた。中でも金融庁職員は出向中の裁判官だった。株式市場の「番人」が不正に私腹を肥やしていたとすれば言語道断と言うほかない。
関係省庁は不正な株取引を厳しくチェックするとともに、今回のように監視役が手を染める事態も想定し再発防止策を講じる必要がある。
強制調査を受けた金融庁職員は、株式公開買い付け(TOB)を計画中の企業の書類審査を担当していた。今年4月の出向後から8月ごろまでの間、職務で知った情報を基に自己名義で株の売買を繰り返し、利益を得たとの容疑だ。
東証社員は、決算予想の修正など上場企業が経営に関する情報を公表する「適時開示」の担当部署に所属していた。公表前の複数の情報を親族に漏らした疑いが持たれている。
両者に共通するのは、株価を大きく左右できる情報に日常的に接する立場にあった点だ。誘惑の強さは民間企業の比ではない。
日本証券業協会は独自のインサイダー取引防止システムを構築しているが、対象は上場企業の役員や社員の株取引に限られ、取引を管理する立場の不正を想定していない。しかし性善説に基づき、個人の職業倫理に委ねるだけでは、不正の根絶は難しいだろう。
東証の親会社は独立社外取締役による調査検証委員会を設けて内部体制の検証や原因究明を行い、再発防止策の策定に生かす。教育の強化など精神論にとどめず、証券業界と連携してインサイダー情報に接する職員の証券口座では株取引に厳しい制限を課するなど、実効性のある方策を探るべきだ。
今年から少額投資非課税制度の税優遇措置を拡充した「新NISA」が始まり、政府は「貯蓄から投資へ」を盛んに呼びかけている。しかし株価の乱高下が相次いでいることも加わり、不祥事が続けば株取引に対する国民の信頼が低下してしまう可能性も否めない。
今月1日には、三井住友信託銀行の管理職社員によるインサイダー疑惑も発覚した。市場への疑念を払拭するためにも、政府と関連業界は不断の努力を重ねなければならない。
インサイダー疑惑 投資家への裏切り行為だ(2024年11月9日『山陽新聞』-「社説」)
金融庁に出向中の裁判官、東京証券取引所の社員、三井住友信託銀行の管理職と、相次いでインサイダー取引の疑いが明らかになった。内部情報を知り得る立場を利用して株取引で利益を得ていたとすれば、多くの投資家を裏切る行為であり、公正であるべき市場への信頼が揺らぐ。事実を解明し、再発防止を徹底するべきだ。
金融庁に出向した裁判官は株式公開買い付け(TOB)を予定する企業が提出する書類の審査などを担当していた。出向直後からTOBなどの情報を基に自己名義で株式取引を繰り返し、利益を得ていた疑いがあり、証券取引等監視委員会が強制調査した。
三井住友信託銀行の管理職だった社員は、業務上知り得た情報を基に他社の株式を複数回取引していた。同行は関係当局に通報し、社員を懲戒解雇したとしている。
特に上場企業を合併・買収する際などに行われるTOBは、市場価格を上回る買い付け価格が提示され、発表後に株価が急騰するケースが多い。市場の公正さを保つため、情報が漏れないよう厳重に取り扱うことが欠かせない。
今回の三つの事案は、いずれも株式市場と関わりの深い組織で発覚しており、深刻に受け止めねばならない。金融庁は証券行政をつかさどる官庁であり、東証は日々の株式売買を扱っている。信託銀行は株主名簿の管理など、株式関連の事務を担っている。インサイダー取引が禁止されていることは、従業員なら当然知っていたはずだ。
とりわけ、不正な取引を防ぐ立場にある金融庁と東証の事案は、関係者から「警察官が窃盗事件を起こしたようなもの」と指摘されるほどで、極めて悪質だ。さらに金融庁の職員は裁判官だった人物である。高い倫理観が求められる職業でありながら不正に手を染めていたなら、言語道断と言わざるを得ない。
政府は「貯蓄から投資へ」を掲げ、今年1月に新しい少額投資非課税制度(NISA)をスタートさせた。国民の資産形成を後押しするとともに、企業の資金調達を支えて経済成長につなげる狙いがある。続発する不祥事は、こうした流れに水を差すことになりかねない。関係した企業や団体は事実関係を徹底して調査し、内部管理体制を強化するなど、防止策を練り直す必要がある。
金融商品取引法は上場企業の未公開情報を基にした株取引だけでなく、情報を他人に伝えたり取引を勧めたりすることも禁じる。
この社員は上場企業の未公開情報を取り扱う部門に所属し、TOBに関する情報を事前に知り得る立場にあった。立場の悪用が事実なら、職業倫理の欠如にあきれるほかない。
裁判で判決を下す立場である裁判官が、出向先の業務を悪用して株取引をしたことが事実なら、その悪質性には言葉を失う。
政府は、新少額投資非課税制度(NISA)開始を機に「貯蓄から投資へ」を呼びかけている。
監視委はいずれの事案についても東京地検特捜部への告発を視野に入れているという。金融市場の「番人」による不正は前代未聞であり、法に基づく厳正な対処をためらってはならない。
株不正取引 市場の信頼は傷ついた(2024年11月6日『北海道新聞』-「社説」)
公正な株取引を監視する「市場の番人」たちが自ら不正に手を染め、利益を得ていたならば到底許されない。
TOBは企業買収や親会社による子会社化などで特定企業の株を大量に買い付ける。株主に応じてもらうため、買い値は市場の株価を上回ることが多い。
秘匿情報を扱うことから、金融庁は高い倫理規範を求め、以前から裁判官の出向を受け入れてきたようだ。
今回は短期間に自己名義で株取引を繰り返し、利益を得た疑いがある。事実なら「魔が差した」では済まない。国民の疑念に応えるため、最高裁は過去の出向者も調べる必要があろう。
そもそもインサイダー対策は当事者企業内部や関係者の情報漏えいを主眼に置いてきた。
政府は「資産運用立国」を掲げ国民に投資を促している。1月には投資枠を拡充した新たな少額投資非課税制度(NISA)を開始し、関心は高まる。
その陰で公的部署での不正が横行しては不安と不信は増す。システム面の防止策だけでなく、投機をあおる風潮の中で若い担当者の職業倫理がマヒしていないかの検証も求めたい。
インサイダー疑惑 証券市場の信頼揺るがす(2024年11月3日『新潟日報』-「社説」)
裁判官は、職務中に知った株式公開買い付け(TOB)などの企業情報を基に株取引をした疑いがあるとして、証券取引等監視委員会の強制調査を受けた。
社員は上場企業が公表する「適時開示」を担当する部署に所属していた。複数銘柄の情報を親族に伝え、その情報を基に株取引した親族が少なくとも数十万円の利益を得た疑いがあるという。
証券市場の管理や運用などに関わる3人がこのことを知らないはずはない。疑惑が事実であり、自身や親族の利益を図るためにルールを破っていたのであれば、それは決して許されるものではない。
個人の問題に矮小(わいしょう)化することなく、内部管理体制を再確認し、再発防止策を強化する必要がある。
監視委にも丁寧かつ徹底的な調査を求めたい。
重要情報を知る一部の者が得をするインサイダー取引は一般投資家への裏切りであり、市場の公正性をゆがめることでもある。
公平性を欠く市場からは投資家が離れてしまう。関係者は改めて肝に銘じてほしい。
不正な株取引 目を覆う職業倫理の欠如(2024年11月2日『西日本新聞』-「社説」)
事実なら職業倫理の欠如は甚だしい。事実関係を踏まえ厳正に対処し、再発防止策を講じなくてはならない。
インサイダー取引の疑いがある裁判官は4月から金融庁に出向している。間もなく業務を通じて知った未公表情報を基に株取引を始め、監視委が調査を始める8月ごろまで自己名義で取引を繰り返し、利益を得たとみられる。
企画市場局企業開示課の課長補佐として、株式公開買い付け(TΟB)を予定する企業が提出した書類の審査などを担当していた。
TOBは市場の実勢価格より高い値で一定の株を買い集める仕組みだ。公表後は対象企業の株価が上がりやすい。厳格な情報管理が求められるのは当然である。
司法試験に合格し、犯罪者を裁く立場にある裁判官が不正を疑われる行為に及ぶこと自体、理解に苦しむ。
親族はその情報を基にした株取引で利益を得たという。本人が取引していなくても、未公表情報を親族に漏らすのは極めて軽率な行為と言わざるを得ない。
現在のルールを検証し、疑惑を繰り返さないようにすべきだ。改めて関係職員、社員に職業倫理を徹底してもらいたい。
JPXの対応には問題がある。監視委の強制調査を受けて、9月下旬に独立社外取締役による調査検証委員会を設置しながら、10月下旬に疑惑が報じられるまで公表しなかった。適時情報開示の姿勢に欠ける。
1月に新たな少額投資非課税制度(NISA)がスタートした。「貯蓄から投資へ」を促す政府として投資家の信頼回復に努める必要がある。
フランス語に「ノブレス・オブリージュ」という言葉がある。もとは貴族の身分に伴う義務を意味したが、人の上に立ち権力を持つ者には相応の果たすべき重責があると解釈され、欧米の道徳観ともなる。日本でも知られる観念だ。
洪水のような衆院選報道の一方で、ノブレス・オブリージュ(noblesse oblige フランス語: [nɔblɛs ɔbliʒ])とは、高い社会的地位には義務が伴うことを意味するフランス語。「nobless」は「高貴さ」、「oblige」は「(義務を)強制する」という意味)のかけらも感じられないニュースが相次いだ。元大阪地検検事正による部下に対する性的暴行事件の初公判や、金融庁に出向中の裁判官のインサイダー疑惑である。
性的暴行被害者の女性検事は「被害から6年間、ずっと苦しんできた。身も心もぼろぼろにされた」。会見映像でのおえつは悲痛極まりなかった。事件当時、元検事正は「これで俺の女だ」と暴行を続け、口止めも図っていたという。検察が糾弾する反社会勢力にも似たやり口ではないか。
裁判官は、未公表の株式公開買い付け(TOB)情報を基に株取引した疑いで証券取引等監視委員会の強制調査を受けた。職務で知った厳格に扱うべき情報を私的な殖財に利用するとは、あきれてものが言えない。「役得」で利益を上げようとする浅ましさにはうんざりである。
法曹たる元検事正、裁判官の知性は高いレベルにあると思われるが、持ち合わせるべき徳性や品性、倫理観はいかほどだったか。暴走の一因はエリートの思い上がりでなかったか。国民感覚との乖離(かいり)に暗然とする。
英国のある大学でこんな不正に関する実験をしたそうだ。教職員…(2024年10月27日『東京新聞』-「筆洗」)
英国のある大学でこんな不正に関する実験をしたそうだ。教職員のためのスペースにコーヒーや紅茶を用意し、飲んだ人は代金を箱の中に入れてと書いたポスターを張った
▼ポスターの写真は毎週、張り替え、1枚は花の写真で、もう1枚はこちらをじっと見つめる目の写真。これを10週間続けて集計したところ差が出た。目の写真の週の箱の中のお金は、花の週に比べて3倍ほど多かったそうだ。写真とはいえ、「見られている」感覚が不正をためらわせたか
▼職務で知った未公表情報を親族に漏らし、不正な取引に関与した疑いがある。公平で信頼できる市場を提供するはずの東証で、その社員がインサイダー疑惑とは事実なら日本市場そのものの信頼を傷つけかねない
▼インサイダー取引を見張る「目玉」のポスターがもう1枚いるらしい。張る先が市場を監督する金融庁というのもまた情けない。最高裁から金融庁に出向中の30代の裁判官がやはりインサイダー情報に基づいて株式を売買していた疑惑が出ている。裁判官? ため息が出る
▼万事がカネで職業倫理さえ当てにできない当世か。監視の目をより強め「不正は必ず暴かれる」とポスターに大書きしておきたい。
インサイダー疑惑の解明急げ(2024年10月25日『日本経済新聞』-「社説」)
金融庁で強制調査の対象となったのは、裁判所から出向中の30代男性だ。企業開示課でTOB(株式公開買い付け)関連書類の審査などを担当していたという。職務で知った未公表情報に基づき株式を売買した疑いが持たれている。
監視委の強制調査は不正の証拠の収集などが目的だ。インサイダー取引が事実なら、極めて重大な問題である。監視委は丁寧かつ迅速に実態解明を進めてほしい。
インサイダー取引は市場の公正を著しくゆがめる行為だ。未公表情報を早く握った関係者が抜け駆けで利益を得てしまえば、一般投資家の市場への信頼は失墜する。だからこそ、金融商品取引法で罰則を科し、監視委も日々、疑わしい取引に目を光らせる。
日本ではM&A(合併・買収)が経営戦略として重みを増し、TOBも定着してきた。M&A関連のインサイダー取引を防ぐ重要性はいっそう高まっている。特に企業価値向上の旗振り役でもある金融庁・東証には、情報管理の厳しい規律が求められる。
新NISA(少額投資非課税制度)が始動し、ようやく「貯蓄から投資へ」が進みつつあるタイミングである。市場に対する投資家や国民の信頼が崩れて、せっかくの流れが止まってしまうことは避けなければならない。
株の不正取引 職業倫理を踏みにじる行為だ(2024年10月24日『読売新聞』-「社説」)
自分が公益性の高い業務に就いていることを忘れたのか。職業倫理を踏みにじる不正行為が相次いでいることに、驚きを禁じ得ない。
この社員は東証で、上場会社の重要情報を扱う「適時開示」の担当部署に所属していた。株式公開買い付け(TOB)に関する未公表の情報を把握し、親族に株取引を勧めた疑いがある。親族はこの株取引で利益を得たとされる。
これとは別に、最高裁から金融庁に出向中の裁判官についても、インサイダー取引の疑いが浮上している。TOBを予定する企業の書類を審査する立場にあったが、その情報などに基づいて株式を売買していたとみられている。
2人とも金融や法律には精通していたはずだ。ルールを知らないなど、あり得ないだろう。自分や親族の利益のため、故意に違法行為をしたと考えざるを得ない。
今年1月からは、少額投資の運用益を非課税にする「NISA」の制度が拡充された。海外からの投資も活発で、株式市場は歴史的に高い水準にある。
日本市場に対する信頼を揺るがしかねないという点でも、事態は深刻だと言えよう。関係当局は、動機や事件の背景を解明し、再発防止に努めねばならない。
コロナ禍では、経済産業省の若いキャリア官僚2人が、国の「持続化給付金」など計約1550万円をだまし取ったとして、逮捕された。今回、インサイダー取引の疑いが持たれている2人も、20歳代や30歳代だとされる。
公共のために働く誇りや責任を見失い、簡単にお金を得ることばかり考える風潮が強まっているのだとしたら、ゆゆしきことだ。
官公庁や各企業は研修などを通じて、法令順守を徹底させる必要がある。職業人としての意識を高め、責任感を持たせるプログラムなども重要だろう。
インサイダー疑惑 裁判官が不正に走るとは(2024年10月24日『産経新聞』-「主張」)
法曹界は国民から厳しい視線を投げかけられている
公表前のTOB情報は企業経営の重要事項だ。30代の裁判官は金融庁で企業開示課の課長補佐としてTOBを審査していた。その情報で株取引するなど、市場を歪(ゆが)める、絶対にやってはならぬ不正行為である。それを本人名義で平然と行う感覚は、どうなっているのか。罪を裁き、判決を言い渡すべき立場の裁判官が、である。
監視委は検察への告発も視野に入れ調査中だという。悪質性を鑑(かんが)みれば当然であろう。
裁判官への行政・刑事責任は当局の調査・捜査を待ちたいが、この問題が浮かび上がらせるのは、裁判官として当然備えるべき「矜持(きょうじ)」や「責任感」といった職業倫理が、信じ難いほど欠如している現状である。
最高裁は、監視委の調査を承知しているとし、「遺憾」とのコメントを出した。だが、この事件を裁判官個人の資質の問題に矮小(わいしょう)化してしまうのは適切ではない。問題の本質を法曹界で共有し、若手人材の教育を再び徹底させるべきではないか。
法曹界は今、厳しい視線を国民から投げかけられている。検察は、その取り調べの適正性に疑問が呈されており、袴田巌さんの再審無罪には裁判所が負うべき責任も大きい。法曹界全体で信頼回復に当たらなければいけないはずだ。そのさなかに、何をしているのだ。
歴史上、裁判官はいかなる圧力にも屈せず正義を貫くことが社会から求められ、それゆえに身分が厚く保障されている。何よりも高度な倫理観が求められる職業なのに、なぜこのような人物が裁判官になっているのか、最高裁、法曹は深刻に考えなければいけない。