滋賀医大生・性暴力事件、検察がおこなった「上告」とは? 最高裁で覆るのは「年間数件」…三審制を解説(2024年12月27日『弁護士ドットコムニュース』)

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最高裁判所(弁護士ドットコムニュース編集部撮影)
滋賀医科大の学生2人が知人女性への強制性交罪に問われた裁判の控訴審で、大阪高裁は12月18日、実刑とした1審の大津地裁判決を破棄して無罪を言い渡しました。これに対して、大阪高検は判決を不服として、最高裁に上告しました。
上告とはどういうものなのか、よくわからないという方も多いと思います。今回の裁判でどのような主張、展開になるかは現時点では不明ですが、上告の概略を簡単に説明してみます。
●控訴、上告とは?
正しい裁判を実現するために、日本では三審制度がとられています。
刑事裁判は、多くの場合、第一審を地方裁判所でおこないます。地方裁判所の判決に不服があれば、高等裁判所に控訴し、高等裁判所の判決に不服がある場合には、最高裁判所に上告する、というのが一般的な流れです。
ただし、この3つの裁判所で、それぞれゼロから裁判をやって、同じような手続きを3回繰り返すわけではありません。
控訴審高等裁判所)では、基本的に第一審の判決内容が不合理かどうかを判断するのであって、第一審と同じ手続きが繰り返されるわけではありません。
被告人の出廷も必要ではありませんし(出廷しても良い)、新たに裁判資料が提出されることも基本的にはありません。
控訴審判決に不服がある場合でも、最高裁判所に上告できるのは、基本的には高等裁判所の判決が憲法に違反するか、判例に違反する場合に限られます(刑事訴訟法405条)。
上告審では、原則として公判は開かれません。書面だけのやりとりで、被告人は裁判所に行くこともなく、全てが終わってしまうことがほとんどです。
第四百五条
高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対しては、左の事由があることを理由として上告の申立をすることができる。
一 憲法の違反があること又は憲法の解釈に誤があること。
二 最高裁判所判例と相反する判断をしたこと。
三 最高裁判所判例がない場合に、大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所判例又はこの法律施行後の控訴裁判所たる高等裁判所判例と相反する判断をしたこと。
●上告審で審理できること
上告審で憲法違反や判例違反が認められることはほとんどありません。年に1件もないことも多いです。
ほとんどの事件では、「上告理由が刑事訴訟法405条に規定する事由にあたらないことが明らかである」として、公判期日も開かれずに、決定で上告が棄却されてしまいます。
そうすると、上告審にはほとんど意味がないのではないか、とも思えるのですが、上告審にはもう一つ、職権破棄(刑事訴訟法411条)という制度があります。
職権破棄とは、憲法違反や判例違反がなくても、最高裁判所が職権で原判決(=高裁の判決)を破棄できる場合がある、とするものです。
第四百十一条
 上告裁判所は、第四百五条各号に規定する事由がない場合であつても、左の事由があつて原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。
一 判決に影響を及ぼすべき法令の違反があること。
二 刑の量定が甚しく不当であること。
三 判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があること。
四 再審の請求をすることができる場合にあたる事由があること。
五 判決があつた後に刑の廃止若しくは変更又は大赦があつたこと。
注意すべきなのは、あくまで「職権」であって、411条にあたる場合に、原判決を破棄することが「できる」だけだということです。最高裁判所が職権を発動しないケースはいくらでもあります。
また、411条1号から5号のどれかにあたる場合、というだけでなく、「原判決を破棄しなければ著しく正義に反する」ことも認められなければ、職権破棄はできません。職権破棄のハードルも非常に高いものです。
なお、職権破棄を含めても、上告審で控訴審判決が覆される(破棄自判や、破棄差戻・移送)のは、年間で2000件近い上告の中の、わずか数件、というのが実情です。
「結局上告審にはほとんど意味がない!」という意見もあると思います。
●上告の流れ
実際に上告することを決めたら、どのような流れとなるのでしょうか。
まず、控訴審の判決の送達を受けた日から2週間以内に、上告申立書を裁判所に提出します。
この際の申立書には、具体的な内容はまったく書きません。「●年●月●日に、●●裁判所が宣告した判決は、全部不服であるから、上告を申し立てる」というような、数行の記載だけの簡単なものです。
今回も、現時点ではこの上告の申し立てが行われたばかりという段階ですから、上告審での具体的な主張は存在しておらず、誰も知ることができません。
上告の申し立てがあると、そこから裁判所が「上告趣意書」の提出期限(だいたい1ヶ月半~2カ月くらい先)を決めて、当事者に連絡します。
当事者は、「上告趣意書」を作成して、提出期限までに提出します。この「上告趣意書」には、具体的な不服の内容を書きます。上に挙げた刑事訴訟法の条文にある「法令違反」「判例違反」「裁判所が職権を発動すべき事由(+原判決を破棄しなければ著しく正義に反する)」があることを、できるだけ説得的に論じていくことになります。
●上告審で判決が覆る場合
上告審で判決が覆る場合には、大きく「破棄自判」と「破棄差戻し」とがあります。
破棄自判とは、控訴審の判決を破棄して、最高裁判所が自ら判決を下す場合です。
破棄差戻しとは、控訴審の判決は破棄するが、最高裁判所自らが判断するには審理が足りない場合に、審理を高等裁判所地方裁判所にやり直しさせる場合です。
なお時折、「最高裁で弁論決定」という報道を見ることがあるかもしれません。弁論というのは、裁判所で意見を述べたりすることです。
先に書いたように、最高裁では基本的に書面での審理しかされないため、最高裁で弁論が開かれること自体、非常に稀です。そのため、判決がひっくり返る(「破棄自判」や「破棄差戻し」になる)展開を予想してかニュースになるようです。
たしかに、最高裁判所で、高等裁判所の結論を変える場合には、必ず弁論を開かなければなりません。
しかし、結論を変えない場合であっても、重要な問題について、最高裁判所でも弁論を戦わせるべきと判断された場合には、弁論を開くことがあります。
ですから、弁論が開かれたからといって、必ず判決がひっくり返るわけではありません。
●今回の上告についてのまとめ
以上みてきたように、上告審で憲法違反や判例違反が認められることはほぼありません。
上告の際に憲法違反や判例違反の主張も一応しておくのだとは思いますが、実質的には、職権破棄を求める主張が今後の中心になるのだと思われます。
ただし、職権破棄がなされることも非常に少ないことも、先に書いたとおりです。
現時点では、具体的にどのような理由で上告されるのかは誰にも分かりませんが、検察官がどのような主張をしていくのか、注目していきたいと思います。
(弁護士ドットコムニュース編集部・弁護士/小倉匡洋)