最高裁判所(弁護士ドットコムニュース編集部撮影)
滋賀医科大の学生2人が知人女性への強制性交罪に問われた裁判の控訴審で、大阪高裁は12月18日、実刑とした1審の大津地裁判決を破棄して無罪を言い渡しました。これに対して、大阪高検は判決を不服として、最高裁に上告しました。
上告とはどういうものなのか、よくわからないという方も多いと思います。今回の裁判でどのような主張、展開になるかは現時点では不明ですが、上告の概略を簡単に説明してみます。
●控訴、上告とは?
正しい裁判を実現するために、日本では三審制度がとられています。
ただし、この3つの裁判所で、それぞれゼロから裁判をやって、同じような手続きを3回繰り返すわけではありません。
被告人の出廷も必要ではありませんし(出廷しても良い)、新たに裁判資料が提出されることも基本的にはありません。
上告審では、原則として公判は開かれません。書面だけのやりとりで、被告人は裁判所に行くこともなく、全てが終わってしまうことがほとんどです。
第四百五条
高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対しては、左の事由があることを理由として上告の申立をすることができる。
●上告審で審理できること
ほとんどの事件では、「上告理由が刑事訴訟法405条に規定する事由にあたらないことが明らかである」として、公判期日も開かれずに、決定で上告が棄却されてしまいます。
そうすると、上告審にはほとんど意味がないのではないか、とも思えるのですが、上告審にはもう一つ、職権破棄(刑事訴訟法411条)という制度があります。
第四百十一条
上告裁判所は、第四百五条各号に規定する事由がない場合であつても、左の事由があつて原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。
一 判決に影響を及ぼすべき法令の違反があること。
二 刑の量定が甚しく不当であること。
三 判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があること。
四 再審の請求をすることができる場合にあたる事由があること。
五 判決があつた後に刑の廃止若しくは変更又は大赦があつたこと。
注意すべきなのは、あくまで「職権」であって、411条にあたる場合に、原判決を破棄することが「できる」だけだということです。最高裁判所が職権を発動しないケースはいくらでもあります。
また、411条1号から5号のどれかにあたる場合、というだけでなく、「原判決を破棄しなければ著しく正義に反する」ことも認められなければ、職権破棄はできません。職権破棄のハードルも非常に高いものです。
なお、職権破棄を含めても、上告審で控訴審判決が覆される(破棄自判や、破棄差戻・移送)のは、年間で2000件近い上告の中の、わずか数件、というのが実情です。
「結局上告審にはほとんど意味がない!」という意見もあると思います。
●上告の流れ
実際に上告することを決めたら、どのような流れとなるのでしょうか。
まず、控訴審の判決の送達を受けた日から2週間以内に、上告申立書を裁判所に提出します。
この際の申立書には、具体的な内容はまったく書きません。「●年●月●日に、●●裁判所が宣告した判決は、全部不服であるから、上告を申し立てる」というような、数行の記載だけの簡単なものです。
今回も、現時点ではこの上告の申し立てが行われたばかりという段階ですから、上告審での具体的な主張は存在しておらず、誰も知ることができません。
上告の申し立てがあると、そこから裁判所が「上告趣意書」の提出期限(だいたい1ヶ月半~2カ月くらい先)を決めて、当事者に連絡します。
当事者は、「上告趣意書」を作成して、提出期限までに提出します。この「上告趣意書」には、具体的な不服の内容を書きます。上に挙げた刑事訴訟法の条文にある「法令違反」「判例違反」「裁判所が職権を発動すべき事由(+原判決を破棄しなければ著しく正義に反する)」があることを、できるだけ説得的に論じていくことになります。
●上告審で判決が覆る場合
上告審で判決が覆る場合には、大きく「破棄自判」と「破棄差戻し」とがあります。
なお時折、「最高裁で弁論決定」という報道を見ることがあるかもしれません。弁論というのは、裁判所で意見を述べたりすることです。
先に書いたように、最高裁では基本的に書面での審理しかされないため、最高裁で弁論が開かれること自体、非常に稀です。そのため、判決がひっくり返る(「破棄自判」や「破棄差戻し」になる)展開を予想してかニュースになるようです。
しかし、結論を変えない場合であっても、重要な問題について、最高裁判所でも弁論を戦わせるべきと判断された場合には、弁論を開くことがあります。
ですから、弁論が開かれたからといって、必ず判決がひっくり返るわけではありません。
●今回の上告についてのまとめ
ただし、職権破棄がなされることも非常に少ないことも、先に書いたとおりです。
現時点では、具体的にどのような理由で上告されるのかは誰にも分かりませんが、検察官がどのような主張をしていくのか、注目していきたいと思います。
(弁護士ドットコムニュース編集部・弁護士/小倉匡洋)