トランプを断罪できない米リベラル派の犯罪行為バラします!(2024年7月24日『現代ビジネス』)

アメリカ大統領は「独裁者」
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アメリカの連邦最高裁判所は7月1日、ドナルド・トランプ前大統領ら歴代大統領について、刑事責任が部分的に免責されるとの判断を示した。
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判事9人のうち6人は、大統領について、「公的な行為」に関しては免責されるが、「公的ではない行為」に関しては免責されないとし、地裁で審理するよう指示したのである。
反対した3人のうち、ソニア・ソトマイヨール判事(下の写真)は、判決シュラバスのなかで、「法の上に立つ者はいないという、わが国の憲法と行政制度の根幹をなす原則を愚弄(ぐろう)するものだ」と書いた。
さらに、彼女は、大統領が海軍の「シールズ・チーム6」に政敵の暗殺を命じたり、政治権力を保持するためにクーデターを組織したりしても、刑事訴追を免れると警告した。
「リベラル派」に属するとされるこの判事の言い分は、真っ当なものにみえるかもしれない。
しかし、騙されてはならない。オーナ・ハサウェイ・イェール大学ロースクール国際法教授(下の写真)が7月16日に公表した論文「世界の他の国々にとって、米大統領は常に法の上にある」にあるように、「何十年もの間、アメリカの大統領は違法な戦争を行い、外国の指導者の暗殺を企て、人々を不法に拘束し、拷問し、民主的な政府を倒し、抑圧的な政権を支援してきた」のである。
そう、ソトマイヨール判事の意見陳述は、こうしたアメリカ大統領による恐るべき「独裁」という現実を隠蔽(いんぺい)しかねないのだ。
そして、トランプ大統領が再選されると「独裁」になると脅す人々(たとえば、ネオコンの理論家ローバート・ケーガン)は、明らかに「嘘」をついている。すでに、アメリカ大統領は「独裁者」なのだから。
アメリカ、犯罪行為のオンパレード
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まず知ってほしいのは、アメリカ大統領の命令で世界中の何十万、何百万もの人々が殺されてきたという事実である。
たとえば、拙著『帝国主義アメリカの野望』では、2003年のイラク戦争以降の紛争をめぐって、「アメリカ軍、アルカイダ過激派、イラクの反乱軍、あるいはテロリスト集団『イスラム国』の手によって、約20 万人の市民が死亡した。
イラク軍と警察の少なくとも4 万5000 人、イラク反乱軍の少なくとも3 万5000 人も命を落とし、さらに数万人が人生を左右するような傷を負った」と書いた。ハサウェイは、「アナン国連事務総長が『違法』と呼んだ2003年からのアメリカのイラク戦争の直接の結果として、およそ30万人のイラク市民が殺された」と指摘している。
他方で、アメリカとイギリスは、2001年にはじめた、アフガニスタンでのタリバンアルカイダ、関連勢力との戦争を、国連憲章第51条(国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合、個別的または集団的自衛の固有の権利を認めている)を理由に正当化した。
この勝手な言い分による戦争の結果、「7万人以上のアフガニスタンパキスタンの民間人が死亡したと推定されている」と、ハサウェイはのべている。
何人殺しても、罪に問われない米大統領
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もちろん、何年もの間、アメリカの暴力に対する責任を問う試みがなされてきた。
米国内外の弁護士たちは、海外での米軍やCIAの活動に異議を唱える裁判を次々と起こしてきた。だが、責任を問われた者はいない。米大統領は米国外での行動に関しては、「長い間『法の上の王』であった」と、ハサウェイは的確に指摘している。
たとえば、憲法上必要とされる議会の承認なしに大統領が行う戦争に対する米国の法廷での法的異議申し立ては、ここ数十年、米国の裁判所によって繰り返し却下されてきた。
裁判所は、大統領が法律に違反しているかどうかの議論を聞く前に、これらの訴訟を却下してきた。裁判所は一般的に、裁判所が解決するのに適していない政治的問題を提示するか、原告には原告適格がないとして、門前払いをつづけている。
私がまったく知らなかった話を紹介しよう。「米国市民でさえ、説明責任や法的審査なしに殺されてきた」と、ハサウェイは書いている。つぎのような話だ。
法の上のオバマ大統領
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アンワル・アウラキの父親は、米国市民であるアウラキを米国の標的殺害リストから除外することを求め、オバマ大統領を米国連邦裁判所に提訴した。政治的な問題があり、アウラキの父親には原告適格がないとして裁判所が訴えを却下して間もなく、米政府は無人機による攻撃でアルアウラキを殺害した。アウラキの16歳の息子(同じく米国籍)も2週間後に無人爆撃機で殺害された。彼の8歳の娘も米国市民であったが、数年後に米部隊の襲撃で殺された。
これらの殺傷力行使の決定の合法性を評価する裁判所はなかった。つまり、海外だけでなく、アメリカ国内においても、オバマ大統領は法の上に君臨し、米国民を殺害させたのだ。
オバマ大統領のひどさは、まだまだある。2009年の大統領就任後、オバマ大統領は、9.11同時多発テロ後の数年間、米国政府が違法な拘束と拷問を拡大的に行ってきたという十分な証拠があるにもかかわらず、死に至らしめた被拘禁者虐待の事例を2件しか調査しないことを決定した。
彼はその後、この2件の死亡事件と、CIAによる尋問ビデオテープの破棄について、刑事責任を問うことなく捜査を打ち切った。関与した重要な政府高官が懲戒処分を受けることはなかった。
ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、2018年5月から2021年1月までCIA長官だったジーナ・ハスペルは、彼女がタイで運営していたCIAの「ブラック・サイト」で、被拘禁者が「強化尋問」と水責めを受けるのを見ていた。拙稿「EUがついに米CIAのコワ~イ施設を断罪!」で紹介したように、アメリカは、コソボリトアニアポーランドルーマニア、タイなど、世界中のいくつかの場所で非合法なCIAの「ブラック・サイト」を運営し、そこで秘密裏に被拘禁者を拘束し、拷問を行っていた。
つまり、明白な刑事犯がCIA長官だったということになりかねない。
「リベラル派」の不誠実
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本当は、アメリカ大統領はすでに「独裁者」として数々の不正義を世界中に撒き散らしてきた。ところが、「リベラル派」と呼ばれる民主党支持者らは、主要メディアと結託して、こうした現実を封印するか、目立たないように報道してこなかっただけなのである。
たとえば、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領とコリン・パウエル国務長官が1991年の湾岸戦争イラク人犠牲者を相手取ってベルギーで起こした戦争犯罪訴訟は、米政府からの強い外交的圧力を受けて取り下げられた。
2011年2月、ジョージ・W・ブッシュ大統領は、9.11以降の米国の拷問プログラムへの関与に対する刑事訴訟の脅威のなか、ジュネーブでの出廷を取りやめた。
アメリカはそもそも、自国が行う戦争が合法かどうかを判断する管轄権を持つ可能性のある国際裁判所の管轄権に同意していない。
国際刑事裁判所(ICC)がアフガニスタンでの米軍による拷問疑惑の調査を開始したとき(アフガニスタンICCを設立したローマ規程の締約国であるため、国際刑事裁判所には管轄権がある)、トランプ政権は裁判所の裁判官やスタッフに対して前例のない経済制裁を行い、起訴を「優先しない」ように、いじめ抜いた。その裁判は止まったままだ。
わかってほしいのは、「リベラル派」の中途半端な情報、すなわち「ディスインフォメーション」によって真実を見失う可能性が大いにあるということだ。
だからこそ、『ニューヨーク・タイムズ』や『ワシントン・ポスト』の報道を鵜呑みにしてはならない。ましてや、それらをオウム返しするだけの日本の主要メディア報道も信じてはならないのである。
この人たちもまた「嘘」を平然と流すことで、日本国民を騙しているのだ。
塩原 俊彦(元高知大学大学院准教授・元新聞記者)