円安などを背景に急増する外国人観光客(インバウンド)に対して、料金を高く設定する「二重価格」の是非が議論されている。世界遺産の姫路城では、訪日客の入場料引き上げを検討し始めた。海外の観光地では導入例が多いものの、日本ではまだ少数派。「差別的に見える」と慎重な意見もある。訪日客の増加と二重価格をどう考えるべきか。(岸本拓也)
「姫路城には7ドルで入れるが、もっと値上げしたいと思っている。外国の人は30ドル払っていただいて、市民は5ドルくらいにしたい」
◆入場者過去最多「多くの人が上ると天守閣が傷む」
6月中旬、姫路城を管理する姫路市の清元秀泰市長は市内のイベントで、訪日客の料金を約4倍にする構想を明らかにした。姫路城の外国人入場者は昨年度、過去最多の約45万人に上っており、「多くの人が上ると天守閣が傷む。市民の憩いの場であり、2種類の料金設定があってもいい」と後日、報道陣に発言の趣旨を説明。実際に値上げするかは検討中という。
海外の観光地では、外国人観光客と自国民らの間で「差」をつけることは珍しくない。エジプトのギザのピラミッドの見学料は、地元やアラブ諸国の観光客よりその他の外国人客は9倍高い。フランスのルーブル美術館やインドの世界遺産タージマハル、南米ペルーの世界遺産マチュピチュなども同様に差を設けている。
新興国を中心にホテルや飲食店で観光客からは高い料金を取るケースもあり、日本でも訪日客と地元客で料金を分ける試みが始まっている。東京・渋谷の海鮮居酒屋では、日本人や、日本で暮らす外国人であることが証明できれば、料金から1100円分を割り引き、実質的に訪日客の料金を高く設定している。
◆法的な問題はないの?
消費経済アナリストの渡辺広明氏は「訪日客向けに外国語のメニューを用意したり、スタッフが外国語で対応するなど、店側には接客コストがかかっている。ただでさえ、円安で原材料費が上がる中、事業を継続するために『二重価格』を取り入れるのは、やむを得ない。今後、日本でも広がっていくのでは」と話す。
同じサービスや商品を訪日客だけ値段を上げることに問題はないのか。消費者問題に詳しい日本女子大の細川幸一名誉教授は「自由競争下では、原則として価格は当事者間で自由に決められる。同じサービスや商品でも相手によって価格が異なっても法的な問題はない」と解説する。
年齢や居住地などの「属性」で価格差をつけることも「シニア割り」や「子ども割り」「地元住民割り」といった形で日本でも受け入れられている。近年は同じ商品でも、地域や時間帯で価格差を設ける飲食チェーンも出てきている。
◆アンケートでは反対4割「差別感ある」
ただ、訪日客向け料金については、「外国人差別では」との意見も根強い。ポイントサービス「Ponta(ポンタ)」を運用するロイヤル・マーケティングが2月に行った調査では、二重価格の導入に約6割が賛成だったが、残り約4割の反対派からは「差別感がある」「詐欺みたい」という意見が上がった。
先の渡辺氏は「飲食店なら1品サービスしたり、お城なら特別なステッカーをプレゼントするといった付加価値をつけて、訪日客に価格差を納得してもらう工夫は必要だろう」と話す。
細川名誉教授は、飲食店での安易な導入はうまくいかないとみる。「日本に来るのは円安の恩恵を受けた裕福な人ばかりではなく、若いバックパッカーもいる。外国人だからと高い料金を取られて、また日本に来たいと思うだろうか。『おもてなし』に反するような安易な外国人価格は、長い目で見て支持を得られないのではないか」