万葉集に登場する海水魚は…(2024年7月18日『毎日新聞』-「余録」)

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天然本マグロを検品する仲卸業者=仙台市若林区で2020年6月12日、面川美栄撮影
 
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海上いけすで朝に釣り上げた養殖のクロマグロを確認する近大水産養殖種苗センター長の岡田貴彦さん=和歌山県串本町で2023年8月、菅沼舞撮影
 万葉集に登場する海水魚はカツオ、スズキ、タイ、マグロの4種類という。どれも美味で今も愛される魚だ。マグロは「しび」と呼ばれ、「鮪衝(しびつ)く」と「鮪釣る」の2種類の漁法が歌に詠まれている
▲地方によっては今も「しび」を使う。宮城県気仙沼市にはかつてマグロ遠洋漁業で栄えた鮪立(しびたち)漁港がある。周辺の縄文遺跡からは大量のマグロの骨が見つかっているというから、はるか昔からなじみ深い存在だったわけだ
▲マグロの呼称は江戸時代に定着したという。語源は諸説あるが、海中で魚体が黒く見えることから「真黒」がなまったとする説も有力だ。元々、本マグロと呼ばれ、日本近海で最大のクロマグロを指すと考えればうなずける
▲太平洋クロマグロの資源管理を話し合う国際会議で30キロ以上の大型魚の漁獲枠を1・5倍に拡大することが合意された。10年前に絶滅危惧種に指定されたが、翌年の漁獲規制導入で資源量が大幅に増えたという
▲すしネタでも刺し身でも手が出しにくい高級品である。少しでも値段が下がるならありがたい。一方で天然モノが増えれば、近年市場にも出回るようになった日本発の完全養殖クロマグロには打撃というから悩ましい
▲世界のマグロの5分の1は日本人の胃袋に入るそうだが、すしの国際化で生のマグロのおいしさを知る外国人が増えて消費量は拡大している。天然魚だけに頼るのは心配だ。人工ふ化した稚魚から育てる完全養殖は環境負荷も小さい。何とか共存できる道を模索してほしい。