海の日 恵みに感謝し守る決意を(2024年7月15日『産経新聞』-「主張」)
その海がもたらす豊かな資源と美しい自然は、後世に引き継ぐべき大切な財産だ。その恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の一層の繁栄を願う日が、きょうの「海の日」である。
だが、その広大な海域の安全は近年、脅かされ続けている。四国南方の海底にある大陸棚「四国海盆」の海域では先月、中国の海洋調査船が無断でブイを設置した。
この船は、昨年7月に尖閣諸島(沖縄県石垣市)沖のEEZ内に無断でブイを設置したのと同じ海洋調査船だった。中国は尖閣諸島周辺の日本領海への侵入も繰り返している。一方的に海域開発を進めて権益を主張しようとする行為を、許してはならない。
わが国固有の領土にもかかわらず、韓国による不法占拠が続く竹島(島根県隠岐の島町)周辺の海域では先月、韓国政府が海洋調査を3度も実施した。本来、韓国には日本に事前に通報し、同意を得る義務がある。日本政府は中止を求め、韓国外務省に抗議したが、韓国は独自の立場に基づき応答した。
政府は繰り返し「遺憾の意」を表明しているが、それだけでは海域の安全は守れない。海洋権益拡大を狙い、あえて無法を繰り返す蛮行に毅然(きぜん)と対応すべきだ。海域を守るとは、国家主権と安全を守ることである。
宮城・気仙沼の歌人、熊谷龍子さんは「森は海を海は森を恋いながら悠久よりの愛紡ぎゆく」と詠んだ。海と森の恵みは相互作用の上にあり、わが国の豊穣(ほうじょう)な海と自然豊かな国土は、それらを大切に守り、育ててきた先人たちが積み重ねてきた営みの上にある。
その美しい国を守る責務は政府と国民にある。
海の恩恵に感謝し、「海を守る」決意を改めて、国民一人一人が新たにする。それが「海の日」だ。
食卓から異変が見える(2024年7月15日『東京新聞』-「社説」)
ノリ養殖=写真=は、9月中旬の「種付け」作業から本格化。主に陸上で直径2メートルの水車に幅1・2メートル、長さ18メートルの網を巻き付け、水車を回転させながら胞子の入った水槽に浸します。種付けをした網は、いったん冷凍庫に保管し、水温が下がる10月下旬、沖合100メートルから2・5キロの漁場に立てた支柱に張り込みます。
ひと月ほどかけて、長さ20センチ程度の葉っぱ状に育ったところで、摘み取り。加工場で重ねて、すいて、乾燥させ、板状の「干しノリ」にした状態で出荷します。摘み跡から伸びる葉っぱを繰り返し摘み取りながら、水温が上がる翌年4月上旬まで作業は続きます。
ニッポンの海水が熱い
でも、困ったことが起きています。伊勢湾のノリは、海水温が23度以下にならないと葉っぱ状に育ってくれないのですが、近年、地球温暖化の影響で海水温が下がりにくくなっているのです。
鬼崎漁業協同組合の記録では、1989年には、10月3日から張り込み作業を始めることができたのに、2019年には同月21日、昨年は22日と、この30年で19日も後にずれ、養殖期間が短くなって収穫減につながっています。
張り込み後も、水温が十分に下がらないため、ノリが網に根を張れず荒波に流される被害が出ることも。鬼崎では、過去の経験で、張り込みから17日目までに水温が20度を下回らないと、生育に悪影響が出ることが分かっています。
89年に120軒あった鬼崎のノリ漁師は、今や3分の1ほどに。「温暖化に歯止めがかからなければ、後継者不足と相まって、ノリ養殖はさらに縮小するかもしれません。機械化にも限界はあるし…」。鬼崎漁協の平野正樹参事は危機感を募らせます。
太陽光などで発生した熱の9割は海が吸収すると推定されています。米海洋大気局(NOAA)の分析によると、昨年8月、日本近海を含む、世界の海面の約半分が「海洋熱波」と呼ばれる異常高温に覆われました。温暖化による大陸内陸部の気温上昇の影響で、日本近海の海面温度は、この100年で平均1・28度上昇。世界平均の2倍を超えるハイペースで温暖化が進んでいます。
これに伴い、海中の異変もエスカレートしています。
サンマやイカ、秋サケの不漁だけではありません。サワラ、タチウオ、ブリなどが瀬戸内海や九州などから“涼”を求めて北上中。北関東が北限とされていた伊勢エビが、津軽海峡を渡って北海道に達する一方で、冷たい水を好む知床半島名産の「羅臼コンブ」は激減しています。
京都府の舞鶴湾の岩場には、毒のあるウニの仲間のガンガゼや、食用には向かないフジナマコのような熱帯性の生き物たちがへばりつき、東京湾ではサンゴ礁が急速に広がって、沖縄の海と見まごうような光景が、ダイバーの目を見張らせます。
海辺を歩けば、海を痛めつけているのは温暖化だけではないと、分かります。ペットボトル、レジ袋、空き缶、空き瓶、廃家電、廃自転車…。陸で森が消えれば目に付きますが、魚や貝の餌場で「海のゆりかご」と呼ばれる藻場が消失しても見過ごしがちです。
<浜はまつりの/ようだけど/海のなかでは/何万の/鰮(いわし)のとむらい/するだろう。>
今読むと、この金子みすゞ『大漁』の詩句が痛撃しているのは、海の豊かさに強く依存しながら、十分に<海のなか>の状況に思いを致せない<浜>の浅はかさ、のように思えてなりません。
海の恵みを守るために
でも、手掛かりは暮らしの中にあると、鬼崎漁協の平野さんは言います。「今、食卓に当たり前に上っている海産物が、いつまでもそこにあるとは限りません。海の異変は毎日の食卓にも表れるのです。例えば、海水温の微妙な変化に影響される、ノリの不思議な一生を知ることで、海の異変に関心を持っていただきたい」
まずは食卓から、何ができるか考えてみたいものです。今日は海の日-。
海の日 ブルーカーボンに注目だ(2024年7月15日『山陽新聞』-「社説」)
香川大が坂出市や与島漁協と協働し、穴がたくさん開いた特殊な構造物を海中に沈めて、海藻や海草が茂る藻場を人工的に造成する試みだ。同大の末永慶寛教授らが2010年度から高松市沖などで研究している技術を応用する。構造物に海藻が着いて繁茂し、「海の森」をつくることが実証されている。
今回は科学技術振興機構に採択された「共創の場形成支援プロジェクト」の一環として、まずは瀬戸大橋の中央部にある与島付近で行う予定だ。長さや幅が1メートルほど、高さ45センチの構造物4基を沈め、海藻のガラモ、海草のアマモの育成を目指す。徐々に増やし、結果を踏まえて他の海域での造成方法を検討していくという。成果を期待したい。
海藻や海草の藻場は、稚魚のすみかや産卵場所となって魚介類を育む役割を担うだけでなく、最近では光合成による海中の二酸化炭素(CO2)の吸収源としても注目される。藻場や浅場などの海洋生態系に取り込まれた炭素は、09年に国連環境計画の報告書で「ブルーカーボン」と命名された。森林など陸域の植物が光合成で取り込む炭素である「グリーンカーボン」と比べ、単位面積当たりの吸収力が上回るという。枯れても炭素を含んだまま海底に堆積し、脱炭素への効果は大きい。
政府は50年の脱炭素化を目指しており、四方を海に囲まれた日本で今後、ブルーカーボンの活用は不可欠と言えよう。実際、環境省も海藻と海草による吸収量の22年度総計を世界で初めて算定し、今年4月に国連に報告している。
吸収するCO2を排出権として換算し、企業などに売却する取引でも日本が先行する。政府や関係機関は実績を積み上げ、新たな脱炭素の手段として国際的に広める考えだ。
尾道市は漁協と共同で22年末、植物プランクトンが生息する4カ所の人工干潟とその周辺に広がるアマモ場をCO2の吸収源として認定機関に申請し、年130・7トン分の排出権が認められた。福山市は本年度、藻場を造成して排出権として売却する可能性についての調査を始めた。
藻場の再生では岡山県は全国の先進地だ。備前市日生町付近のアマモ場は高度成長期の環境変化で一時は12ヘクタールに減ったが、漁協などの長年の取り組みで15年には250ヘクタールまで回復した。引き続き再生に力を注ぐ必要があろう。これとは別に、県水産研究所(瀬戸内市)はガラモ場を形成するための研究に乗り出した。
きょうは海の日。海洋植物などが持つ秘めた力をもっと引き出したい。
海のありがたさを考える(2024年7月15日『琉球新報』-「金口木舌」)
▼海の向こうから訪れる観光客は県経済を成長させる。アジアに近い沖縄は地理的優位性を生かし、外国客を呼び込める。航空路線に加え、クルーズ船が寄港すると県内各所がにぎわう
▼海の現状に目を向けると、温暖化による生態系の変化や海洋汚染など課題が山積する。私たちは海から恵みを受けるばかりで、保護の取り組みをおろそかにしていないか
▼きょうは「海の日」。海の恩恵に感謝し、環境を守る重要性を考えたい。ニライカナイに祈るウチナーンチュは海の素晴らしさを誰よりも知り、世界に発信する役割を果たせるはずだ。