東日本大震災13年 漁業 三陸沖、温暖化に応じ変革を(2024年3月9日『河北新報』-「社説」) 

 東日本大震災から、もがきながらも再起を図ってきた浜に、急速に進む「海の温暖化」が大きな影を落としている。世界三大漁場、三陸沖の漁業は岐路に立たされている。

 三陸沖に豊かな恵みをもたらしてきた親潮が3月になっても沿岸に強く張り出さない異常事態が続く。寒流系の魚が極度の不漁に陥っている。

 被災3県で最も寒流系の魚に恵まれてきた岩手の漁業は特に深刻だ。かつて北海道に次ぐ水揚げ量を誇った主要魚種の秋サケ。2006~10年度に平均836万匹だった回帰数が22年度には17万匹になり、震災前の約2%に落ち込んだ。23年度は4万4000匹(速報値)とさらに激減し、危機的な状況にある。

 秋サケと並んで代表的な魚種のサンマも23年の水揚げ量は4303トンで、22年(3421トン)よりは回復したが、震災前年の10年(4万2263トン)の約10%に過ぎない。

 漁獲対象を寒流系の魚に絞って大量に取り、流通や加工もそれに特化し、効率化してきたのが、岩手の水産業の特徴だ。種類は少ないものの、多くの魚を育む親潮に適応した漁業文化だったと言える。震災後、以前は珍しかったマダイなど暖流系の魚が増えており、長く続いた業態も変えなくてはならないだろう。

 岩手大三陸水産研究センター(釜石市)の平井俊朗センター長は「海は以前のような状態にすぐに戻らない。特定魚種を大量に取る漁業から少量多品種の魚を1匹単位で高く売るような業態への変革、多角化に迫られている。新たな販路開拓や漁業者の法人化も必要になる」と指摘する。

 昨年からは東京電力福島第1原発事故の処理水放出の影響も加わった。市場の評価が高く、7割が中国や香港向けの高級干しアワビに加工される岩手産アワビは、中国の禁輸措置に伴い、23年の平均価格(10キロ当たり)が前年より35・3%下落した。水揚げ量も23年は100・9トンで全国一を維持したが、震災前の平均値の3分の1に満たない。

 あらゆるマイナス要素が重なった苦境を脱するには、手厚い支援が必要だ。岩手県達増拓也知事は先月のインタビューで、主要魚種の不漁が復興の足かせになっているとの認識を示した。サケ・マス類の海面養殖の拡大、高水温に適したアサリの養殖推進、アワビの風評被害対策に取り組む考えを表明したが、他にもすべきことが少なくない。

 例えばここ数年、定置網に大量のクロマグロがかかり、県に配分された漁獲枠を超えてしまうため、多くが海に放されているという。資源量が回復している現状を国や関係機関に訴え、漁獲枠の拡大を求めてはどうか。高値が付くクロマグロは寒流系の魚の不漁を補う存在になり得る。

 震災から13年。岩手の漁業は海の温暖化に適応する新たな形を探り、大胆に変革する覚悟が問われている。