小泉龍司法相(左)に選択的夫婦別姓制度の早期導入を求める提言を手渡した経団連の魚谷雅彦ダイバーシティ推進委員長(中央)と長谷川知子常務理事=東京都千代田区の法務省で2024年6月28日午後3時54分、町野幸撮影
希望すれば結婚前の姓を使い続けることができる「選択的夫婦別姓制度」の導入に、岸田文雄首相が慎重な姿勢を貫いている。経済界からも要望が強まる中、ブレーキをかけ続ける自民党のかたくなな姿勢は理解に苦しむ。
経団連は6月、早期実現を求める提言を政府に提出した。
女性が結婚して改姓することによるキャリアの途絶を避けるため、旧姓の通称使用が広がってきた。だが、海外渡航や銀行口座開設時にトラブルが起きやすく、「企業にとってもリスクとなり得る」と危機感を示した。
それでも政府の対応は鈍い。
首相はかつて別姓制度の実現を目指す党議員連盟の呼びかけ人に名を連ねていた。最近は国会答弁で「家族の一体感や子どもの利益にも関わる問題であり、国民の理解が重要だ」と繰り返している。
夫婦同姓を法律で義務づけている国は日本だけだ。海外で、別姓が原因となって家族の一体感が損なわれたとの報告はない。首相の説明は説得力に欠ける。
子どもが両親のどちらの姓を名乗るかについては、婚姻や、出生の際に定めるという案がまとめられている。すでに議論の土台は整っている。
選択的夫婦別姓制度の導入を望む人は28・9%と、17年の前回調査の42・5%から急落した。現在の夫婦同姓制度を維持した上で、旧姓の通称使用の法整備を求める人は42・2%で最も多かった。ただ、前回調査から設問の表現や順番を変えており、その影響が指摘されている。
夫婦の約95%は女性が改姓している。ビジネスや生活上の不利益にとどまらない人権の問題である。個人が尊重され、男女が平等に扱われなければならない。多様な選択肢が認められるべきだ。
自民党は、党内の議論を再開させることにしたが、これ以上の先送りは許されない。一刻も早く導入を決断するよう首相に求める。