夫婦別姓の議論が3年停滞…経団連にせっつかれ重い腰を上げる自民 岸田首相の「やる気のなさ」は変わらず(2024年6月28日『東京新聞』)

 
 選択的夫婦別姓を巡り、経団連が制度の早期導入を提言したことを受け、自民党が党内議論に向けて重い腰を上げようとしている。制度の導入を求めて国を提訴した原告ら当事者は一連の動きに期待する一方、前向きではない岸田文雄首相の姿勢もあり「本当にやる気があるのか」との疑念をぬぐえていない。(砂本紅年)

 選択的別姓 結婚する際に夫婦がそれぞれの姓を名乗ることも、同じ姓を名乗ることもできる制度。1996年、法相の諮問機関「法制審議会」が導入の改正法案要綱を答申したが、自民党保守派が反対し、30年近く国会に上程されないままたなざらしになっている。96年当時は夫婦同姓を法律で義務付けていた国は他にもあったが、人権の観点から相次いで法改正し、別姓を選べないのは世界で日本だけとなっている。

夫婦別姓訴訟の第1回口頭弁論終了後、支援者らが集まる会場で陳述内容を報告する原告=27日、東京都港区で

夫婦別姓訴訟の第1回口頭弁論終了後、支援者らが集まる会場で陳述内容を報告する原告=27日、東京都港区で

◆「本当はしなくてもいい訴訟」

 27日に東京地裁で開かれた夫婦別姓訴訟の第1回口頭弁論終了後、原告の支援者ら約50人が集まった都内の会場。寺原真希子弁護団長は「国会がちゃんと仕事をしないので、本当はしなくてもいい訴訟をしている」と述懐し、経団連の提言について「さまざまな方向からの声は大きな力になる」と話した。
 同訴訟の弁護団による提訴は3回目。過去2回は最高裁大法廷が現行規定を合憲と判断し、制度のあり方は「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄」とした。ただ、国会は自民党保守派の「伝統的な家族が崩壊する」との主張により長年動いていない。自民党は2021年に党内の意見集約に向けた作業チームを立ち上げたが、賛成派と反対派の溝は埋まらず、議論は3年間中断となっていた。

経団連が「旧姓の通称使用の弊害」を指摘

 経団連は6月上旬、選択的夫婦別姓の早期導入を求める提言を発表。政府が進めてきた日本独特の制度「旧姓の通称使用」について、「女性活躍が進めば進むほど弊害が顕在化」と問題視した。
 会員企業の女性役員が対象の調査では、旧姓の通称使用が可能である場合でも、88%が戸籍上の姓の変更による「不便さ・不都合・不利益が生じる」と回答。具体的な内容として「取引先への説明が負担となる」などの意見も寄せられた。
 経団連は夫婦同姓を強制する現状を「企業経営の視点からも無視できない重大な課題」とし、十倉雅和会長も25日の記者会見で「オープンにスピーディーに議論を」と念を押した。
 経団連の提言を受け、自民党も重い腰を上げ、作業チームを再開する方針。制度導入を求める一般社団法人「あすには」代表理事の井田奈穂氏は「再開自体は喜ばしい動き」としながらも、「議論はしても制度を変える気はないという、これまで繰り返されてきたパターンでは」と疑う。自民党内は賛成派も増えているとはいえ、支持基盤である保守層の影響は依然として強いからだ。

◆「世論調査でも意見が分かれている」で済ます岸田首相

 「世論調査でも意見が分かれている」。岸田首相は従来の発言にとどめ、制度導入に前向きとはいえない。法制化を求め、訴訟経験もあるサイボウズの青野慶久社長は作業チームについて、X(旧ツイッター)で「進める気がないことが伝わってきますね」と苦言を呈した。
 井田氏は「意見が分かれていることが人権問題を是正しない理由にはならない。党議拘束を外し、国会の場で議論してほしい」と訴える。制度導入を目標に掲げて今年、女性初の日本弁護士連合会会長となった渕上玲子氏も「私たちも粘り強く主張していく。(作業チームは)導入の方向で検討してほしい」と話した。
 
 

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