夫婦別姓の議論 政治の怠慢もう許されぬ(2024年3月22日『中国新聞』-「社説」)

 理不尽な制度をいつまで続けるのか。強い問いかけだ。

 夫婦別姓を認めない民法や戸籍法の規定は個人の尊重を定めた憲法に違反すると、全国の男女12人が東京、札幌両地裁に今月、提訴した。別姓で婚姻できる地位の確認などを国に求める。同じような集団訴訟は3度目になる。

 導入に向けた立法の議論を進めない政治の怠慢は、もはや許されない。

 女性の社会進出を背景に1996年、法相の諮問機関の法制審議会が選択的夫婦別姓制度を実現する改正要綱を答申した。政府は改正案を準備したが、国会提出に至らなかった。最高裁大法廷は2015年と21年の2回、現行の同姓制度を合憲としつつ「国会で議論、判断されるべきだ」と指摘した。しかし、応えないまま時だけが過ぎた。

 法律では夫と妻のどちらの姓を選んでもいいが、実際には夫婦の95%は女性が改姓している。

 弊害は明らかだろう。今回の訴訟に参加した研究職の女性は姓を変え、取得した特許の登録者名が混在して仕事に支障があるという。やむなく事実婚を選んだ女性は相続で不利になる懸念を訴えた。社会的な承認や法的権利を損なっているとの声は切実だ。

 夫婦別姓の議論がたなざらしなのは、自民党の保守派が反対するからだ。96年の改正案に「家族の一体感が損なわれる」「絆が弱まる」との意見が多かった。伝統的な家族観に価値を置く人の感情的とも映る反対で、議論を滞らせたままでいいのだろうか。

 世論は大きく変化した。共同通信社が昨年に実施した世論調査で、選択的夫婦別姓制度に賛成は77%に上った。若い世代ほど高く、中高年にも、家族が多様化する中で自らと違う価値観への理解が深まりつつあるといえよう。

 政府は旧姓の通称使用を広げてきた。だが今年に入り、経団連や企業経営者の有志らが選択的夫婦別姓制度の導入を求めた。海外渡航手続きや契約書のサインなどで支障が出ているとの指摘だ。十倉雅和・経団連会長の「女性の働き方をサポートするため、一丁目一番地としてやってほしい」との言葉はうなずける。法的根拠のない通称ではもはや限界だと直視すべきだ。

 選択的別姓制度には野党や公明党も賛成している。岸田文雄首相は「家族の根幹に関わる」として慎重だ。だが自民党総裁選前には、導入派の党議員連盟の呼びかけ人に加わった。保守派に配慮している場合ではなかろう。聞くべきは国民の声であり、日本だけが法律で同姓を強いる現実を見る必要がある。決断のリーダーシップを求める。

 導入には子どもの姓をどうするかなど課題がある。司法の判断を待つまでもなく、政府は法制審議会の改正要綱やかつての改正案を土台に、具体的な議論に入るべきだ。

 変えられない背景には、政治や司法の意思決定の場に女性が少ないジェンダー格差が影響していよう。「夫婦同姓がいけないわけでなく、選ばせてほしい」。当たり前の声が届かない社会でいいのか。