「暗殺者の銃弾によって殉教者の大義が失われたことはない」…(2024年7月17日『毎日新聞』-「余録」)

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銃撃された後、警備担当者に囲まれて拳を突き上げるトランプ前大統領=米ペンシルベニア州バトラーで13日、AP
 
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カリフォルニア州のホテルで銃撃される直前に演説するロバート・ケネディ元司法長官(中央)=1968年6月5日、AP
 
 「暗殺者の銃弾によって殉教者の大義が失われたことはない」。1968年4月に黒人運動指導者、キング牧師が暗殺された直後にロバート・ケネディ元米司法長官が語った言葉だ
▲名門出身の42歳の政治家は2カ月後に兄のジョン・F・ケネディ大統領に続いて銃弾の犠牲になった。大統領選出馬表明で現職のジョンソン大統領を再選断念に追い込み、カリフォルニア州民主党予備選に勝利した直後だ
▲大学でのベトナム反戦運動の高まりとイスラエルのガザ攻撃に対する抗議行動。現職大統領への撤退圧力。68年との類似性はこれまでも指摘されてきたが、銃弾が有力候補を襲ったのも56年ぶりだろう
▲演説中に狙撃されたトランプ前大統領だ。右耳貫通というからまさに間一髪。事件後、大統領候補に正式指名される直前に無所属での大統領選出馬を目指す元司法長官の子息、ロバート・ケネディ・ジュニア氏と会談したという
▲「米国を永遠に変えるかもしれない画像」。米ワシントン・ポスト紙はトランプ氏が警備担当者に囲まれてこぶしを突き上げる姿を演台の下から撮影した写真をこう評した。背後には米国旗が翻る
▲好き嫌いはともかく「暴力に屈しない力強い指導者像」が映し出されたことは間違いない。聴衆の男性1人が死亡しても銃規制の声が広がらないのが不可思議だが、それが米国の現実という。ただ、元司法長官は「米国人が米国人の手で不必要に命を奪われる時は……国全体が劣化している」とも言い残している。