宝塚宙組の再開 悪弊を根絶できるのか(2024年7月11日『東京新聞』-「社説」)

 宝塚歌劇団宙組(そらぐみ)が、公演を9カ月ぶりに再開した。所属する俳優の女性=当時(25)=が昨年9月に急死した後、公演を休止していた。日本を代表する名門歌劇団は、問題となったいじめやパワハラなど内部の悪弊を根絶できるのか、引き続き注視したい。
 この問題では女性の遺族の代理人弁護士が、女性の死は自殺で、上級生らのパワハラがあったなどと訴えた。かけがえのない命が失われ、「清く正しく美しく」という歌劇団のイメージも深く傷ついたが、改めて指摘したいのは、歌劇団側の対応のお粗末さだ。
 歌劇団は昨年11月、外部の弁護士らによる調査報告書を公表。遺族の訴えのうち、女性の過重な労働は認めたが、いじめやパワハラは「確認できなかった」とした。
 だが、後日、調査をした弁護士らの事務所に、歌劇団を運営する阪急電鉄の関連企業で役員を務める弁護士が所属していることが判明。報告書の信頼性は大きく揺らぎ、歌劇団が自ら公式サイトから削除する失態となった。
 女性が上級生からヘアアイロンを額に当てられてやけどをしたとする遺族の訴えに「証拠」を見せるよう求めた姿勢も問題だ。ネット上で、女性や遺族をおとしめる発言が飛び交う誘因となった。
 いずれも歌劇団が真摯(しんし)とは言い難い小手先の対応に終始したがために起きた事態だろう。女性の妹で現役団員だった俳優(現在は退団)は今年2月、歌劇団の責任を問い「これ以上姉と私たち遺族を苦しめないでください」とする談話を出した。実に痛ましい。
 親会社の阪急阪神ホールディングスは3月、一転して、上級生らによるパワハラを認め、遺族への謝罪と補償を表明したが、遅きに失した感は拭えない。本来なら歌劇団は今年「110周年」を華やかに祝うはずだったが、記念の年が暗転する事態となり、ファンからも対応に批判の声が上がる。
 信頼を取り戻すには、かねて指摘される閉鎖的で上意下達に偏した体質を根底から改める必要がある。宙組の公演再開を「問題の幕引き」でなく「再生への幕開け」とするよう、強く望みたい。