沖縄米兵の性犯罪 情報の「隠蔽」は許されぬ(2024年7月11日『山陽新聞』-「社説」)

 沖縄県で、駐留する米兵による性的暴行事件が相次いで起きていたことが明らかになった。被害者の人権と尊厳を踏みにじる行為で、断じて許されない。
 事件の一つは昨年12月、米軍嘉手納基地の空軍兵が16歳未満の少女を車で誘拐し、暴行したとされることだ。これとは別に今年5月には海兵隊員が成人女性に暴行目的でけがを負わせた疑いがある。
 いずれも那覇地検が不同意性交などの罪で起訴している。12月の事件はあす那覇地裁で初公判が開かれる。
 米軍基地が集中する沖縄では米兵による犯罪が繰り返されてきた。県警によると、本土復帰の1972年から2022年までに米軍関係者が起こした凶悪犯罪は584件に上る。刑法犯の摘発は増加傾向にあり、昨年は72件と過去20年間で最悪だった。
 これでは米軍の綱紀粛正が実効性を伴っているとは到底言えまい。米政府は再発防止を徹底すべきだ。
 今回は看過できない問題も露呈した。捜査当局と外務省は二つの事件を「被害者のプライバシーへの配慮」などを理由に公表せず、県にも伝えなかった。玉城デニー知事をはじめ県民は6月下旬になって初めて、地元メディアの報道で知った。
 米兵による重大事件・事故について、日米両政府は「できる限り速やかに現地の関係当局へ通報する」と合意している。米側から連絡を受けた外務省が防衛省沖縄防衛局を通じて県や市町村に通報する仕組みだ。
 ところが、二つの事件いずれについても情報は防衛省にすら届いていなかったという。ルール違反は明らかで、日米双方に対して県民の間で激しい抗議が起こっているのは当然だろう。
 県警などは事案の発覚後、昨年以降、報道発表していない性暴力事件がほかに3件あると明かした。被害者のプライバシー保護が重要なのは言うまでもないが、きちんと配慮した上で公表する道を探る努力はしたのか。
 実態が明るみに出るまでの間、日米首脳会談や米大使の沖縄訪問、沖縄県議選があったほか、沖縄戦の「慰霊の日」には岸田文雄首相が現地を訪れた。地元住民への注意喚起より、これら政治日程に影響しないことを優先して情報を隠蔽(いんぺい)したのではないかと疑念の声も上がっている。
 沖縄県などの厳しい批判を受け、政府は今月、捜査当局が米軍人を容疑者と認定した性犯罪事件について、非公表であっても例外なく県に伝達する新しい運用を始めた。ただ、プライバシー保護の観点から、内容は「可能な範囲」とされる。確実に機能するか注視が必要だ。
 沖縄では1995年の少女暴行事件などを機に基地の整理・縮小を求める声が高まった。日米両政府は県民の不信や苦しみに向き合い、誠意を持って対応せねばならない。