衆院解散間際に引退、子息の擁立相次ぐ 自民・萩生田光一氏「なんちゃって世襲やめて」(2024年10月4日『産経新聞』)

 
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衆院解散間際に政界引退を表明し、親族が後継者に取り沙汰される自民党大西英男桜田義孝根本匠衆院議員(左から)
石破茂首相が次期衆院選を15日公示、27日投開票の日程で行うと表明するのに合わせ、与野党で政界引退を表明する議員が相次いでいる。後継として自らの子供が名乗りを上げるケースも増えている。こうした状況下では、公募を行っても十分な選考時間を確保できず、ドタバタの中、引退議員の親族が公認予定候補者に決まるパターンが少なくない。
「いやらしい」
「解散間際になって急に毎日のように『今期で引退』と出ている。いやらしい。時間がないから息子で、みたいな〝なんちゃって世襲〟はやめた方がいい」
萩生田光一文部科学相は2日、政治系ユーチューブ番組「魚屋のおっチャンネル」に出演し、ため息混じりにこう語った。
首相は9月27日、自民総裁として、党都道府県連に対し、次期衆院選の公認予定候補者を10月7日までに申請するよう通達を出した。9月30日には次期衆院選の日程を発表した。この前後で、駆け込むように自民の衆院議員が引退を表明し、それに呼応するように親族が出馬する考えを打ち出している。
根本匠厚生労働相(73)は29日、次期衆院選の不出馬を表明した。この4日後、福島県連は、匠氏の秘書で長男の根本拓氏を、父の地盤である衆院福島2区に擁立することを決めた。
県連関係者は匠氏の引退表明について、「辞めるタイミングをもう少し早く判断できなかったか。バタバタで公募に時間をかけられず、(地方議員ら有志に)機会を与えにくくなる」と指摘した。「(後援会や親族の一存で決まる)昭和的な世襲ではなく、予備選を行うなど党の近代化を図るべきだ」とも訴えた。別の県連関係者も「このままでは、拓氏が選挙に勝った場合も、『世襲』批判はついて回るだろう」と懸念する。
千葉8区を地盤とする桜田義孝元五輪相(74)も9月30日に議員引退を表明した。千葉県連は10月1日、8区で後任の支部長(立候補予定者)の公募を開始。義孝氏の長男で柏市議の桜田慎太郎氏が同日エントリーし、公募は3日で終了した。
大西英男衆院議員(78)=東京16区=は9月24日、自身のホームページで次期衆院選に出馬しない意向を明らかにした。同月9日に地元の総支部役員会で不出馬の考えを伝え、同役員会は選考委を設置。「厳正な選考」(英男氏)の結果、英男氏の次男で元東京都江戸川区議の大西洋平氏を擁立する方針を決め、都連に上申したという。
「いんちき世襲はダメ」
自民党は平成30年に党・政治制度改革実行本部が候補者擁立に関する提言をまとめ、引退する現職の親族に「必要かつ十分な時間」をかけた公募の過程を厳格に適用することを求めた経緯がある。
首相側近の平将明デジタル相は9月10日、X(旧ツイッター)で「自民党衆院選挙区の新たな候補者選定は原則公募です。現職がギリギリまで、引退を表明せず、時間がないからとまともな公募による選定をすっとばして、子供に継がせるような『いんちき世襲』はダメです」とけん制し、「新総裁によっては、選挙が早まるかもしれないので、執行部は準備を」と訴えていた。
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萩生田氏は10月2日のユーチューブ番組で、「世襲がいけないといってるのではない」と強調する。「競争にさらして、勝ち上がって、バトンタッチできれば、子供でも孫でもいい」と述べ、公募によって候補者の資質を十分に見極めることが必要だと指摘する。
実際、自民党では世襲であっても、公募によって能力と資質が認められた政治家が当選後、評価される例は多い。
塩崎彰久衆院議員=愛媛1区=の父、恭久元官房長官は令和3年4月に引退表明した。同区の支部長に20人以上が応募した結果、彰久氏が選ばれた。萩生田氏は彰久氏を例に「世襲ではなく、公募候補だ。(能力は)キレッキレだ」と〝太鼓判〟を押す。
今回、自民党だけではなく、立憲民主党衆院議員も解散直前に引退表明し、親族が事実上の後継指名を受ける例がある。
立民の中村喜四郎元建設相(75)=衆院比例北関東=は9月24日、引退を表明した。地盤とした茨城7区を巡っては、26日に長男の中村勇太県議が立候補を表明した。一方、立民の野田佳彦代表は世襲制限を公言している。勇太氏は「野党系無所属」として出馬する構えだ。(奥原慎平)