社会の壁、つかんだ幸せ…全盲姉弟の25年を映画に 「重いテーマ、だけど明るく」 首都圏各地で上映へ(2024年6月30日『東京新聞』)

 
 互いの顔を見たことがない、全盲の姉と弟。その歩みと家族の絆を25年間にわたり記録した、テレビ静岡静岡市駿河区)製作のドキュメンタリー映画イーちゃんの白い杖(つえ) 特別編」が7月から、川崎市など首都圏で順次、上映される。(榎本哲也
映画の一場面。(左から)唯織さん、弟の息吹さん、夫の横田さん=©テレビ静岡

映画の一場面。(左から)唯織さん、弟の息吹さん、夫の横田さん=©テレビ静岡

◆「障害者を特別な人と感じさせず…」

映画の一場面。唯織さん(右端)と家族=©テレビ静岡

映画の一場面。唯織さん(右端)と家族=©テレビ静岡

 取材班は本年度の日本記者クラブ賞特別賞を受賞。「障がい者を特別な人と感じさせずに、一緒に生きることを考えさせる。重いテーマなのに、見終わるとむしろ明るくなる」と評価された。作品は、世界の映像作品を審査・表彰する国際メディアコンクール「ニューヨーク・フェスティバル2024」の金賞も受賞した。
 静岡県焼津市に暮らす、イーちゃんこと横田唯織(いおり)さん(33)=旧姓・小長谷=は生後7カ月で全盲と診断された。2歳年下の弟、イブちゃんこと小長谷息吹さん(32)も全盲で重い障害があり、食べることも歩くことも1人ではできない。

◆監督は父親が中途障害者、特別支援学校の教員免許取得

橋本真理子監督

橋本真理子監督

 監督を務めた橋本真理子・テレビ静岡報道制作局長(53)は、唯織さんが8歳のころに出会い、撮影を開始。1999年と2010年にテレビ番組を作り、放送した。
 最初の映画化は2018年。きっかけは、相模原市知的障害者施設で2016年に起きた殺傷事件だった。「障害がある人にも生きている意味があることを伝えたかった」と話す橋本監督は、父親が中途障害者。大学では養護学校(現特別支援学校)の教員免許を取得している。

◆「白い杖を知らない人にも見てほしい」

映画の一場面。唯織さん(左)と弟の息吹さん=©テレビ静岡

映画の一場面。唯織さん(左)と弟の息吹さん=©テレビ静岡

 唯織さんは2019年、同じく全盲の男性と結婚した。その花嫁衣装姿など新たな映像を加え、今回上映される「特別編」を製作。今年初め、フジテレビ系列で放送された。ナレーションは「笑点」の司会で知られる静岡市清水区出身の落語家、春風亭昇太さんが務めている。
 「『白い杖』って何ですか?と聞かれることが、いまだにある」と橋本監督。視覚障害者のための白杖(はくじょう)を知らない人が、少なからずいる。「そうした人にも見ていただいて、元気をもらった、と思ってくれれば」
 詳細はホームページで。