自衛隊発足70年に関する社説・コラム(2024年6月30日・7月2日)

自衛隊発足70年 国民は頼りに思っている(2024年7月2日『産経新聞』-「主張」)
 
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海上自衛隊自衛艦隊発足70年を記念する式典で挨拶する斎藤聡司令官(中央左)=1日、海自横須賀基地(市岡豊大撮影)
 

 自衛隊が1日、発足から70年を迎えた。
 国民の大多数が、国防や災害派遣に当たる自衛隊を支持し、頼りにしている。
 日本を日本を取り巻く安全保障環境は非常に厳しい。陸海空と内部部局の全ての自衛隊員は国民の期待に応え、日本と世界の平和を守る崇高な任務に邁進(まいしん)してほしい。
 警察予備隊、保安隊を経て、自衛隊は昭和29年7月1日に、直接侵略に対する防衛という使命を担って発足した。
 戦後の平和が保たれたのは憲法第9条のおかげではない。自衛隊と日米安全保障体制が抑止力となって9条の欠陥を補い、日本の独立と国民の生命を守ってきた。
 現憲法には国防に関する直接の規定が存在しない。9条を旗印に自衛隊違憲と決めつけて排撃したり、自衛隊の活動や充実を妨げようとしたりする「平和運動」が横行する時代が長く続いた。抑止力向上を妨げる似非(えせ)平和運動だったといえる。
 逆風にさらされながらも自衛隊と隊員は黙々と訓練や防衛力整備に当たってきた。防衛出動が発令されたことはないが、厳しい任務や訓練で、前身の警察予備隊(昭和25年8月発足)からを含め、2千人以上の隊員が殉職している。その御霊(みたま)に哀悼の誠を捧(ささ)げたい。逆風の時代を含め過去に隊員として国防を担った人々にも感謝したい。
 古希を迎えた自衛隊は侵略者と戦うことになるかもしれないという環境にある。これは東西冷戦期以来の事態だ。台湾有事や朝鮮半島有事、周辺国からのミサイル攻撃などに伴う有事の恐れが高まっているからだ。
 ウクライナの戦場ではドローン(無人機)の活用が急速に進んでいる。サイバー、宇宙、電磁波など新領域での備えの必要性も叫ばれている。軍事は文字通り日進月歩の世界だ。自衛隊は有事に後れをとらないよう万全を尽くす義務がある。
 日本は、軍拡を進め核保有する専制国家の中国、北朝鮮、ロシアに囲まれている。そこで岸田文雄政権は防衛力の抜本的強化を進めている。それには法整備や憲法改正も含め国民の一層の理解と支持が求められる。
 戦う態勢を整えた方が、抑止力を高め平和を保てる、もし有事になっても侵略者を撃退できる―という安全保障の逆説を忘れてはならない。

自衛隊発足70年 幅広い任務こなし信頼深めよ(2024年6月30日『読売新聞』-「社説」)
 
 安全保障環境は極めて悪化している。自衛隊の果たすべき役割は増してきた。厳しい訓練を重ねて、日本の平和を守り、国際社会の安定に貢献してもらいたい。
 自衛隊が発足してからあすで70年となる。1946年の憲法制定当時、吉田内閣は再軍備を否定したが、50年に朝鮮戦争が勃発すると、米国の要請もあり、警察予備隊を設置した。52年の保安隊を経て54年に自衛隊が創設された。
 自衛隊は発足直後から、憲法9条2項が保持を禁じた「戦力」との関係が問われ、「憲法違反」という批判にさらされ続けた。
 転機となったのは湾岸戦争だ。日本は戦争後の91年、ペルシャ湾海上自衛隊の掃海部隊を派遣した。自衛隊にとって初の本格的な海外任務だった。
 自衛隊はその後、カンボジア南スーダンなどで国連平和維持活動(PKO)に参加したほか、イラク復興支援にも携わった。
 多くの派遣先で、自衛隊は規律正しい仕事ぶりを評価された。現地のニーズに沿った献身的な活動は、国際社会での日本の存在感を大きく高めたのではないか。
 一方、阪神大震災東日本大震災などの災害時には、人命救助や被災者支援に従事してきた。
 こうした実績を積み重ねたことで、自衛隊への信頼は確実に高まっている。政府の世論調査では、自衛隊に良い印象を持つ人は、69年は69%だったが、2022年には91%に達した。
 自衛隊は、国の安全や社会の安定に欠かせない存在として広く認識されていると言えるだろう。
 ただ、今後はより幅広い任務をこなさねばならない。
 長年、憲法上は認められているが「政策判断」で保有してこなかった敵基地攻撃能力について、岸田内閣は長射程ミサイルの配備を決め、行使できるようにした。
 今、脅威は、陸海空といった従来の領域にとどまらず、サイバー空間や宇宙にも広がっている。
 政府は23年度から5年間の防衛費の総額を従来の1・6倍に増やすことを決めた。財源をどう確保していくかは重要な課題だ。サイバー防衛の体制を強化するため、通信の秘密に関する憲法解釈の整理にも取り組まねばならない。
 一方、近年では、ヘリコプターの墜落事故や自衛官による機密情報の 漏洩ろうえい 、セクハラなども相次いでおり、緩みが目立つ。
 油断すれば、築き上げてきた信用はあっという間に失われることを自衛隊は肝に銘じるべきだ。