皇后両陛下の英国ご訪問に関するコラム(2024年6月27・29日)

日本のソフトパワー見せつけた天皇、皇后両陛下の英国ご訪問(2024年6月29日『産経新聞』-「産経抄」)
 
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天皇、皇后両陛下のご訪英に際し、バッキンガム宮殿へと続く大通り「ザ・マル」に掲げられた日本と英国の国旗=23日午前、英国・ロンドン(鴨川一也撮影)
 
 恥ずかしながら、彼女が今年50歳になることもロンドン郊外出身であることも初めて知った。英国のチャールズ国王が25日、天皇、皇后両陛下を迎えてバッキンガム宮殿で開いた公式晩餐(ばんさん)会での一幕である。国王はスピーチで切り出した。
 
▼「今年50歳になる、ある方について取り上げるのもお許しいただけるかと思います。(中略)ハローキティのお誕生日(11月1日)を、ぜひお祝いしたい」。国王は日本のサンリオのキャラクター、キティについてユーモアたっぷりに言及したのだった。
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▼国王はスピーチでこのほかスタジオジブリのアニメーションや、その代表作の一つ「千と千尋の神隠し」の演劇版がロンドンの劇場で上演中であることにも触れた。また、アニメ「ポケットモンスター」の決めゼリフ「ゲットだぜ!」も引用してみせた。
▼かと思うと英王室のX(旧ツイッター)には、日本の人気バンド「緑黄色社会」のヒット曲「Mela!」が登場した。ベアスキンと呼ばれる黒い帽子をかぶった英近衛軍楽隊が、バッキンガム宮殿前の広場でこの曲を演奏する様子が投稿されていた。
▼首脳同士の外交ならば、どうしても相手国との政治課題や深刻な国際情勢についての協議に多くの時間を割かざるを得ない。一方、両陛下のご訪問では、皇室外交ならではの親善ムードがうれしい。日本のソフトパワーの確実な浸透も目の当たりにした。
▼国王は自身の先祖であるジェームズ1世に、徳川家康が送った手紙も紹介した。今年は家康とその外交顧問となった英国人、ウィリアム・アダムスが主人公の米ドラマ「SHOGUN 将軍」が、日本語で配信され世界で大ヒットしている。もしかすると国王も視聴していたのかも。

20代で英オックスフォード大に留学された天皇陛下の研究テー…(2024年6月29日『東京新聞』-「筆洗」)
 
 20代で英オックスフォード大に留学された天皇陛下の研究テーマはテムズ川の水運史。現地で川を眺め、文書館で史料と格闘した▼小学生の時、散策した赤坂御用地で「奥州街道」と書かれた標識を見つけた。鎌倉時代の街道が御用地を通っていたことを知り興奮したという
▼興味を抱いた「道」。自著に「外に出たくともままならない私の立場では、たとえ赤坂御用地の中を歩くにしても、道を通ることにより、今までまったく知らない世界に旅立つことができた」とある。水路も「道」。英留学前は学習院大で室町時代海上交通を研究した
▼訪英中の天皇、皇后両陛下がオックスフォードに足を延ばされた。皇后さまも外務省時代に研修生として学んだ地。お二人はどんな思いを抱いたのだろう
▼かつて交戦した日英。陛下はバッキンガム宮殿での晩さん会で戦後、昭和天皇上皇さまが英国に招かれたことに触れ、友好に尽力した人々に感謝した。「裾野が広がる雄大な山を、先人が踏み固めた道を頼りに、感謝と尊敬の念と誇りを胸に、さらに高みに登る機会を得ているわれわれは幸運と言えるでしょう」。道は人々が長きにわたり歩くから道になるということなのだろう
▼陛下は留学時代、英国人が自分でドアを開けた際、後から来る人がいると開けて待っていることに感心したという。日英友好も後世に継いでいきたい。
 

変わらぬ親善の絆、両陛下のご訪英(2024年6月27日『産経新聞』-「産経抄」) 
 
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チャールズ国王夫妻主催の公式晩餐会でスピーチされる天皇陛下=25日、ロンドンのバッキンガム宮殿(PA通信=共同)
天皇陛下は英・オックスフォード大学への入学に先立ち、現地で3カ月ほどホームステイを経験された。昭和58年の夏である。お忍びで参加した地元の村祭りでは、長靴を遠くに投げて距離を競うゲームで「大失敗をした」とか。
▼前に投げたつもりの長靴は真横に飛び、そばにある塀の向こう側に消えた。周囲は歓声に包まれたという。ご自分のペースで過ごされたその期間は、「たいへん貴重であり有益であった」。陛下は著書『テムズとともに』にそうつづっておられる。
▼オックスフォード大には、かつて皇后陛下も留学された。思い出深い英国を国賓として訪問中の両陛下にとっては、感慨もひとしおでいらっしゃるのではないか。「英国に『お帰りなさい』」。バッキンガム宮殿での晩餐(ばんさん)会でスピーチしたチャールズ国王の言葉がふるっていた。
▼国際情勢が厳しさを増す中、対中抑止を共通課題とする日英である。経済や安全保障の面で互いになくてはならない相手となった。先の大戦で砲火を交えた過去を乗り越え、皇室と英王室が高い次元で結びつきを強めてきたおかげにほかならない。
▼宮殿への道をパレードする陛下への、沿道の歓迎もさることながら、英国最高位の「ガーター勲章」を陛下がお受けになったことも喜ばしい。明治天皇から上皇陛下まで4代の天皇にも贈られてきた。日英が「諸外国とは異なる絆を共有」(チャールズ国王)する証しでもある。
▼両陛下のご訪問を機に、宮内庁と英王室はSNS(交流サイト)の公式アカウントを相互にフォローした。こちらはネット時代を象徴する親善の絆だろう。皇室と王室、日本と英国。時勢に翻弄されることなく、「いいね」とたたえ合う関係であり続けてほしい。