70進む日米「一体化」 専守防衛、なし崩しの懸念(2024年7月1日『毎日新聞』)

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陸上自衛隊沖縄県与那国町の与那国駐屯地で2017年4月23日
 防衛省自衛隊は1日、発足から70年を迎えた。中国や北朝鮮、ロシアの軍事的脅威が増す中、政府は憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認し、自衛隊と米軍の一体的運用が進んでいる。岸田文雄政権では反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を認めるなど日本の安全保障政策が転換点を迎えており、憲法9条に基づく「専守防衛」がなし崩しになっているとの懸念もある。
 木原稔防衛相は発足70年にあたり、「我々は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境の中で国民の命と平和な暮らしを守り抜くため、防衛力の抜本的強化に取り組んでいる。任務が増大する中、我々自身も新たな伝統を作っていかなければならない。隊員の使命の自覚や士気の高揚を図りつつ、新たな形を模索していきたい」との談話を発表した。
 防衛庁と陸上、海上、航空の3自衛隊は1954年7月1日、自衛隊法などの施行に伴い発足した。防衛庁は2007年1月に防衛省に格上げされた。
 自衛隊は長く国内での活動にとどまってきたが、91年の湾岸戦争をきっかけに海外派遣を可能とする国連平和維持活動(PKO)協力法が92年に成立。PKOにとどまらず、01年の米同時多発テロ後にはインド洋に補給艦を派遣するなど、海外任務が増えている。現在はアフリカ北東部ジブチに活動拠点を持ち、海賊対処などに当たっている。
 戦争放棄と戦力不保持を定める憲法9条に基づき、自衛隊は「自衛のための必要最小限度」の武力行使にとどめる「専守防衛」に徹してきたが、その原則は揺らいでいる。
 第2次安倍晋三政権は14年7月、集団的自衛権の行使容認を閣議決定。9条の解釈変更により、他国が攻撃された場合に自国への攻撃とみなして反撃することを可能とした。これに伴い、自衛隊は米国を狙った弾道ミサイルの迎撃や邦人輸送中の米艦防護などができるようになった。
 岸田政権は22年、ミサイル攻撃を防ぐために他国の発射基地などをたたく反撃能力を認めることなどを盛り込んだ国家安全保障戦略閣議決定した。ただ、どの時点なら先制攻撃ではなく「反撃」といえるかなど、懸念は今も残る。【中村紬葵】
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自衛隊発足70年 幅広い任務こなし信頼深めよ(2024年6月30日『読売新聞』-「社説」)
 
 安全保障環境は極めて悪化している。自衛隊の果たすべき役割は増してきた。厳しい訓練を重ねて、日本の平和を守り、国際社会の安定に貢献してもらいたい。
 自衛隊が発足してからあすで70年となる。1946年の憲法制定当時、吉田内閣は再軍備を否定したが、50年に朝鮮戦争が勃発すると、米国の要請もあり、警察予備隊を設置した。52年の保安隊を経て54年に自衛隊が創設された。
 自衛隊は発足直後から、憲法9条2項が保持を禁じた「戦力」との関係が問われ、「憲法違反」という批判にさらされ続けた。
 転機となったのは湾岸戦争だ。日本は戦争後の91年、ペルシャ湾海上自衛隊の掃海部隊を派遣した。自衛隊にとって初の本格的な海外任務だった。
 自衛隊はその後、カンボジア南スーダンなどで国連平和維持活動(PKO)に参加したほか、イラク復興支援にも携わった。
 多くの派遣先で、自衛隊は規律正しい仕事ぶりを評価された。現地のニーズに沿った献身的な活動は、国際社会での日本の存在感を大きく高めたのではないか。
 一方、阪神大震災東日本大震災などの災害時には、人命救助や被災者支援に従事してきた。
 こうした実績を積み重ねたことで、自衛隊への信頼は確実に高まっている。政府の世論調査では、自衛隊に良い印象を持つ人は、69年は69%だったが、2022年には91%に達した。
 自衛隊は、国の安全や社会の安定に欠かせない存在として広く認識されていると言えるだろう。
 ただ、今後はより幅広い任務をこなさねばならない。
 長年、憲法上は認められているが「政策判断」で保有してこなかった敵基地攻撃能力について、岸田内閣は長射程ミサイルの配備を決め、行使できるようにした。
 今、脅威は、陸海空といった従来の領域にとどまらず、サイバー空間や宇宙にも広がっている。
 政府は23年度から5年間の防衛費の総額を従来の1・6倍に増やすことを決めた。財源をどう確保していくかは重要な課題だ。サイバー防衛の体制を強化するため、通信の秘密に関する憲法解釈の整理にも取り組まねばならない。
 一方、近年では、ヘリコプターの墜落事故や自衛官による機密情報の 漏洩ろうえい 、セクハラなども相次いでおり、緩みが目立つ。
 油断すれば、築き上げてきた信用はあっという間に失われることを自衛隊は肝に銘じるべきだ。