不正受給について、木原氏が7月5日に省内で説明を受けた際には、資料に注釈で触れられていただけだった。逮捕を知らされたのは、18日の立憲民主党の会合で明らかになった後だった。
防衛省によると、懲戒処分は報告することになっているが、逮捕については全てを知らせることにはなっていなかった。「隠蔽(いんぺい)する意図はなかった」と弁明するが、逮捕に至るような重大な事案をトップに伝えない姿勢は、国民の感覚からかけ離れている。
本来は逮捕された時点で報告すべきものだった。木原氏が国会の閉会中審査で「文民統制の観点から非常に問題があった」と答弁したのは当然だ。
2017年の南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報問題でも、当時の稲田朋美防衛相に「廃棄済み」と報告されていた文書の存在が後に明らかになった。文民統制の不徹底が批判されたが、その教訓は生かされていない。
国会を軽視する姿勢も問題だ。自衛隊では潜水手当の不正受給だけでなく、安全保障に関わる特定秘密の不適切な取り扱いなどで、200人以上が処分された。だが、一連の不祥事が発表されたのは、通常国会閉会後の7月だった。
木原氏は辞任を否定したが、組織を統率できていない責任は重い。最高指揮官の岸田文雄首相のリーダーシップも問われる。
逮捕者が4人いることを知りながら、海上自衛隊幹部も防衛官僚も木原防衛相に報告していなかった。言語道断だ。
防衛政策の根幹である文民統制が揺らぎかねない。岸田首相も防衛相も、事の重大性を認識する必要がある。
海自の潜水士が訓練の回数や時間を偽って、潜水手当を不正に受給していたとして、警務隊が昨年11月、元隊員4人を詐欺容疑などで逮捕していたが、この事実は最近まで公表されなかった。
防衛省は今月12日、この不正受給問題で74人の処分を発表したが、その際も逮捕については一言も触れなかった。初めて明かしたのは18日の野党による聞き取りの場で、木原氏への報告も、その後の19日未明に行ったという。
内部規定では、警務隊が隊員らを逮捕した場合、直属の上司に報告することが義務づけられているが、防衛相に報告する仕組みにはなっていないという。防衛省は今後、逮捕事案などを防衛相に伝える制度を整えるという。
「制服組」と呼ばれる自衛官が、様々な事象を直接、防衛相に報告する必要はないだろうが、部隊から報告を受けた「背広組」の防衛官僚が防衛相に即刻、報告するのは当然ではないか。
今回、処分を担当した背広組の幹部は、事務方トップの次官には逮捕事実を伝えていた。12日の発表前には、木原氏とも打ち合わせを行っていたが、「十分な時間がとれなかったため」、逮捕については報告しなかったという。
だが、処分に関して打ち合わせていた以上、「時間がなかった」という言い訳は成り立たない。
木原氏の責任も重い。一連の不祥事が国会開会中に判明していれば、すぐさま進退問題に発展していただろう。自衛隊の最高指揮官である首相も、対応を木原氏に任せきりにしてはならない。
陸自の郡山駐屯地に勤務していた女性自衛官が、複数の男性隊員から性暴力を受けていた事案では、女性が実名を明かして被害を訴えるまで、防衛省は本格的な調査を行わなかった。身内に甘い組織風土は改まらないのか。
海上自衛隊員が潜水手当を不正に受給した疑いで逮捕されたにもかかわらず、木原稔防衛相に8カ月間報告されなかった。シビリアンコントロール(文民統制)を損なう深刻な事態だ。防衛省・自衛隊は隠蔽(いんぺい)体質を改めなければ、国民の信頼を回復できない。
防衛省は12日、不正受給で海自隊員ら65人の懲戒処分を発表した際には逮捕に触れず、18日午後、立憲民主党によるヒアリングで逮捕の事実を明らかにした。隊員4人が昨年11月に詐欺の疑いで警務隊に逮捕されていたことを木原氏に報告したのは同日深夜だった。
隊員逮捕という重大な事実関係を自ら明らかにしないという姿勢では、隠蔽の意図はなかったと強調しても信用されまい。
木原氏は記者会見で、重要事項を防衛相に報告する「文民統制の要諦」が守られないなら「由々しきことだ」と述べ、文民統制が揺らいでいることを自ら認めた。防衛相への報告を怠ったことは国民に対する背信であり、防衛省・自衛隊は猛省すべきだ。
自衛隊の隠蔽体質は根深い。
陸上自衛隊の南スーダン国連平和維持活動(PKO)やイラクへの派遣を巡り、「ない」としていた日報が後に見つかった。いずれも派遣の継続に都合の悪い現地の治安悪化が記されていた。隊内のハラスメントでも、もみ消しや口止めが横行している。
不正受給問題は、特定秘密の不適切管理などと合わせて一斉に処分し、海自トップの海上幕僚長、隊員逮捕を木原氏に報告しなかった人事教育局長が退職した。火消しを急いだのだろうが、隠蔽体質が一掃されたわけではない。
衆参両院は30日、一連の不祥事を受けて閉会中審査を行う見通しだ。国会には内閣とともに文民統制を担う重責がある。自衛隊は国民の意思に基づいて文民が運用するという原則を再確認するためにも、審議を尽くすべきである。
海上自衛隊の潜水手当不正受給を巡り、隊員4人が詐欺などの疑いで昨年11月に逮捕されていたことが判明した。
防衛省が今月上旬に発表した一斉処分の際は一切説明されていなかった。発表時に計4300万円としていた不正受給額も、最大約1千万円程度膨らむ可能性があるという。
異例の大量処分でうみを出し切るのではなかったのか。事件の全容説明を意図的に曖昧にしていたのであれば、傷ついた信頼はさらに失墜するだろう。
何より信じられないのは、トップの木原稔防衛相が隊員の逮捕を8カ月間も知らされていなかったということだ。
憲法に定められた文民統制(シビリアンコントロール)の機能不全を疑わざるを得ない。極めて深刻な事態だ。
担当者はどのような思惑で逮捕という重要事実を報告しなかったのか、経緯などを徹底的に調査しなければならない。
この状況では他にも報告漏れがあるのではないかと疑われても仕方あるまい。海自だけでなく、他の組織の不祥事を含め、全省的な再点検が必要だ。
先日公表された2024年版防衛白書は、中国や北朝鮮など東アジアの脅威を列挙し、抑止力を高める必要性を例年以上に強調した。急速な防衛力の拡大が組織の劣化を生む悪循環を招いているのだとすれば、極めて危ういと言わざるを得ない。
いくら装備を増強しても、組織が緩んでいては、国を守る責務は果たせない。まず取り組まなければならないのは、体制の抜本的な立て直しだ。
特筆されるのは、台湾有事を念頭に「中台間の軍事的緊張が高まる可能性も否定できない」と、初めて指摘した点だ。中国軍が台湾周辺で航空機や艦艇の活動を常態化させていることを踏まえた。
北朝鮮については、核・ミサイル能力の技術向上に注力していると分析し、高まる脅威に危機感を表明した。
日本を取り巻く安全保障環境は、引き続き「戦後最も厳しく複雑」であるとの認識を示している。サイバー・宇宙分野などを含む総合的な防衛力の強化や、自衛隊と米軍の連携推進による抑止力の向上を図るという。
白書では、特定秘密などの情報保全の重要性を訴え、「ハラスメントを一切許容しない環境の構築」をうたう。
要員不足も深刻だ。人材確保の強化を掲げているが、思うように進んでいない。定年まで勤務可能な一般隊員は、昨年度の採用者数が計画の7割弱にとどまり、任期制の隊員はわずか3割だった。不祥事続きでは、応募者の減少傾向に歯止めはかけられまい。
政府は防衛費を2023年度からの5年間で、総額約43兆円まで増額する。ただ、6兆円あまりを計上した23年度予算では、約1300億円の使い残しが生じる見通しだ。体制が整わないまま、増額ありきで予算を確保したひずみが早くも出始めているのではないか。
安全保障環境の変化に応じて、防衛力を整備することは必要だ。しかし、脅威を強調するばかりで、足元が揺らいだままでは、国民の理解は得られない。信頼回復に向けて、組織の体質を一新することが急務だ。
折しも、防衛費は2027年度までの5年間で総額43兆円へと大幅に増額され、そのための増税も議論される。このままでは国民の理解は到底得られまい。
指揮監督が不十分だったとして、事務方、制服組トップの防衛事務次官、統合幕僚長をはじめ、陸海空3自衛隊の幕僚長、情報本部長ら最高幹部がそろって処分を受けた。 海自は処分者が特に多く、酒井良海上幕僚長が責任を取って辞任する。
これほどの不祥事が重なったのはなぜか。一握りの個人の問題行動では説明がつかない。組織の構造的な欠陥を明らかにする必要がある。
厳格であるはずの規律の乱れは目を覆うばかりだ。組織の性質上、外部の目が届きにくいことが、身内に甘い対応の連鎖につながったのではないか。徹底した検証と再発防止策を求める。
とりわけ特定秘密のずさんな取り扱いは安全保障に関わる重大問題だ。
確認された違法な運用は58件で、このうち海自が45件を占める。護衛艦など38隻で、無資格の隊員が作戦行動などの特定秘密に触れていた。
関係者は「任官して日が浅く、特定秘密情報を理解できない」などと考えていたという。特定秘密の重要性が組織全体で共有されていなかったのは深刻だ。
海自では潜水手当の不正受給額が17年4月からの約5年半で4300万円に上り、免職11人を含む74人が処分された。自衛隊施設の食堂で無銭飲食した22人も処分された。
パワハラについては50代の男性3人に停職などの懲戒処分が下された。
かつてない規模の不祥事にもかかわらず、木原稔防衛相は大臣給与1カ月分の自主返納を表明したにとどまる。トップの責任も厳しく問われていると自覚すべきだ。
今回の処分とは別に、海自では潜水艦乗組員が川崎重工業から金品の提供を長く受けていた疑惑が浮上し、特別防衛監察が行われている。信じ難い癒着だ。順法意識や倫理観まで欠けている。
失墜した国民の信頼を回復するのは並大抵なことではない。規律を取り戻すことはもちろん、組織のあしき体質を改め、生まれ変わらなければならない。
防衛省は、安全保障に関わる「特定秘密」のずさんな運用や手当の不正受給、パワハラなど相次ぐ不祥事を受け、過去最大規模となる218人を処分した。岸田政権は防衛力強化を進めるが、その実行を担う組織の倫理観の欠如と緩みは深刻だ。問題点を徹底的に洗い出し、解体的な出直しを図らねばならない。
特定秘密は2014年施行の特定秘密保護法に基づき、防衛、外交、スパイ防止、テロの4分野で秘匿性の高い情報を政府が指定し、身辺調査による「適性評価」を受けて認められた者だけが扱える。
先の国会で、特定秘密を経済安全保障分野に広げ、民間人も適性評価の対象とする法律が成立した。民間に厳しい規律を求めながら足元の不正は放置していたとあっては、国民の信頼失墜は避けられない。
海自ではほかにも、架空の訓練による潜水手当の不正受給や、食堂で代金を払わない不正飲食が横行していた。多くの隊員が黙認していたという。組織統制の機能不全は明らかで、酒井良海上幕僚長の引責辞任は当然である。
海自を巡っては、潜水艦の修理契約に絡む受注企業との癒着疑惑まで浮上している。川崎重工業(神戸市中央区)が下請け企業との架空取引で捻出した裏金で乗員に金品などを提供していたことが判明し、木原稔防衛相は特別防衛監察を指示した。
潜水艦の製造は専門的な知識と経験を要し、川重を含む2社の寡占状態にある。防衛省は川重への過払いはないとしているが便宜供与の経費が契約金額に上乗せされていた可能性はないか、全容解明が急がれる。
しかし近年は「安保環境の悪化」を理由に、専守防衛を形骸化する政策転換が進む。肥大化する予算と拡大する任務に、人員の確保と育成が追いついていないとも指摘される。
最高幹部計5人を訓戒とするなど、過去最大級で極めて異例の一斉処分となった。
処分対象ではないが、海自の潜水艦修理契約に絡んだ川崎重工業の裏金捻出問題もある。
なぜこんなに不祥事が相次ぐのか、常識では考えられない規律の乱れだ。しかも国民の安全を守る実力組織の混乱である。何か構造的な要因があるのではないかと疑わざるを得ない。
防衛力増強による急速な肥大化が影響していないか。組織に何らかのおごりや緩みが生じているのなら問題の根は深い。
今回は全く異なる内容の複数の深刻な不祥事の処分がまとめて発表された。内部の調査がどの程度、厳格に中立的に行われたのかも分からない。
しかも通常国会が閉会した後のタイミングである。最も打撃が少ない形の発表を狙ったと勘ぐられても仕方あるまい。
木原稔防衛相は「責任を痛感している」として大臣給与1カ月分を自主返納する考えを示したが、その程度の対応で済まされる話ではないだろう。
特定秘密保護法は、国民の知る権利を侵害する危険があり、当初から必要性が疑問視されていた法律だ。
政府は防衛機密などを守るためにはどうしても必要だと訴えて成立を強行したが、それを扱う自衛隊員自体が法を守れないのではあきれて物が言えない。
そもそも国民は何が秘密なのかさえ分からない。秘密指定の範囲が適切なのかの問題もある。これを機に法の廃止を含め根本から議論し直すべきだ。
海自と川崎重工業の裏金を介した癒着では潜水艦員に金品や物品が提供されていたという。言語道断の許されない疑惑だ。
裏金分が修理経費などに上乗せされて海自側に過剰請求され、結果的に国民の税金が無駄遣いされてはいないか。
まず国会の閉会中審査が必要だ。木原氏の責任問題も含め真相を究明しなければならない。
深海作業時に支払われる潜水手当は、2017年から22年までに、海自の74人が総額約4300万円を不正に受給した。海自施設の食堂で、22人が代金を支払わずに飲食を繰り返していた。
一連の不祥事で明らかになったのは、ガバナンス(統治)の不全だ。厳しい規律が求められる組織にもかかわらず、悪弊の横行を食い止めることができなかった。
なぜ長年にわたって放置されてきたのか。原因と背景を徹底的に解明し、国民に説明しなければならない。
そもそも機密を扱う防衛省は外部の目が届きにくい。閉鎖的な体制に問題がないか検証が必要だ。
東アジアの安全保障環境は厳しさを増し、警戒監視などの任務は増えている。そうした中、防衛費は増額されたが、現場の人員不足は解消していない。
防衛省不祥事 信頼裏切る前代未聞の事態だ(2024年7月13日『読売新聞』-「社説」)
機密情報をずさんに扱ったり、行ってもいない訓練の手当を受け取ったり。挙げ句の果てに、職場での無銭飲食やパワハラも起きていた。
最多の119人の処分者を出した事案は、安全保障上の機密情報である「特定秘密」の不適切な取り扱いだ。ほとんどが海上自衛隊で起きていた。
海自では、38隻の艦艇で、特定秘密を扱う資格のない隊員が、コンピューター画面に表示された他国艦船の位置情報など特定秘密を見聞きしていた。
海自の艦長の中には、資格のない隊員には特定秘密に触れさせないようにしていた者もいたが、多くの艦長はそうした意識が希薄だった。無資格の隊員を通じて他国の艦船情報が外部に 漏洩ろうえい すれば、他国艦船が危険にさらされる。
今回、外部への情報漏洩は確認されていないというが、軽率とのそしりは免れない。
同盟国や友好国の信頼も失いかねず、今後、情報共有に支障が生じる恐れがある。
海自ではまた、潜水士が訓練の回数や時間を偽り、潜水手当を不正に受給していたとして74人が処分された。不正額は過去6年間で約4300万円に上るという。
このほか、海自の基地内の食堂で、代金を支払わずに食事していた22人が処分を受けた。
海自を巡っては、潜水艦の修理業務に絡み、隊員が川崎重工業の社員から飲食や金品の提供を受けていた疑惑が浮上し、特別防衛監察の実施が決まったばかりだ。
なぜ海自で不祥事が繰り返されるのか。海自だけなのか。何が組織の緩みを生じさせたのか。不正の根を断たねばならない。
どれも眉をひそめる内容ばかりだ。安全保障にかかわる「特定秘密」が内部で漏洩したケースが43件。主に護衛艦内で資格のない隊員に取り扱わせるなどした。米国との情報共有の前提で、同盟関係を揺るがしてはならない。
実態のない潜水などで不正に手当を受け取った潜水士のうち11人が懲戒免職となった。海自隊員22人が自衛隊基地内の食堂でルールに従わず代金を払わずに食事していたほか、内部部局でも幹部職員3人がパワーハラスメントでそれぞれ懲戒処分を受けた。
海自の潜水艦乗組員らへの川崎重工業の金品提供問題は、元検事らが独立した立場で調査する特別防衛監察が決まっているため今回の対象からは外れた。裏金づくりは長きにわたり組織ぐるみの慣行になっていた可能性がある。
不祥事の大多数は海自でみられた。海自トップの海上幕僚長の辞任は当然だろう。海自は外国との防衛協力の要になる。基本的な安全対策と順法意識の徹底から始めてほしい。同時に、不祥事を生んだ構造問題に切り込まなければ、根絶することはできまい。
国防や災害対応にあたる自衛隊への国民の信頼は厚い。不祥事が現場の士気に与える影響が気がかりだ。慢性的な人員不足も国家的課題として考えるときだ。
停職や減給などの懲戒、内部規定による訓戒を合わせ処分は218人に及んだ。最も多く被処分者が出た海上自衛隊のトップ、酒井良海上幕僚長は減給処分を受け19日付で退任する。事実上の更迭だ。事務次官や統合、陸空の3幕僚長は訓戒となった。自衛隊最高幹部全ての一斉処分も異例だ。
木原稔防衛相は会見で「国民の信頼を裏切るもので決してあってはならない」と述べて謝罪し、国民の信頼を取り戻していく考えを示した。
最も深刻なのは、特定秘密保護法に基づく特定秘密を不適切に取り扱っていた多数の事案だ。海自護衛艦などでの4月の違反公表を受けた大規模調査で発覚し、大半は海自だった。護衛艦内の戦闘指揮所(CIC)や操艦する艦橋に無資格の乗組員が出入りし、特定秘密を知り得る状態だったり、取り扱ったりしていた。
特定秘密保護法の定めにより、特定秘密を扱うには身辺調査などによる「適性評価」(セキュリティー・クリアランス)で資格を得る必要がある。この基本を怠っていたのは、法律と国防上の要請の双方を軽視したことになる。艦船の乗組員不足や適性評価に時間を要する事情があっても愚かとしか言いようがない。放置していた海上幕僚監部などの責任は重大で、外部に特定秘密が漏れた例はなかったと言っても許されない。
秘密保全の意識が乏しいようでは真っ当な軍事組織とはいえない。同盟・同志国の政府、軍から信頼されず、情報交換に支障を来す。それで国家国民を守り抜けるのか。
防衛省は酒井良海上幕僚長ら計117人を懲戒処分にした。訓戒を含む218人の処分は過去最大級。背景にある一連の不祥事は、第2次安倍政権以降の急激な防衛力強化の歪(ひず)みの表れでもある。安全保障の在り方を根幹から改めなければ、信頼は回復できまい。
特定秘密を巡っては58件の違法な取り扱いを認定。特定秘密保護法に基づいて秘密を扱う公務員らの身辺を調査する「適性評価」を経ていない隊員に特定秘密を扱わせた事例が多くあった。
同法は米国と共有する防衛機密の漏えい防止が目的だが、不適切な運用の背景に適性評価など制度自体の問題があるのではないか。
ハラスメント体質の改善は進まず、手当の不正受給に至っては公金をだまし取る犯罪的行為だ。今回の処分とは別に、海自隊員が川崎重工業から賄賂まがいの金品や飲食を提供されていた問題でも特別防衛監察が行われている。
安倍政権は特定秘密保護法に続き、歴代内閣が違憲としてきた集団的自衛権の行使を容認。外国同士の戦争に参加できる安全保障関連法を成立させた。岸田政権も平和憲法を逸脱する防衛政策を引き継ぎ、防衛予算倍増や敵基地攻撃能力の保有などを進めている。
中国や北朝鮮の軍備拡張など周辺情勢の変化に応じて防衛力を適切に整備することは必要でも、予算や権限、防衛装備が急激に膨張し、組織に緩みやほころび、驕(おご)りが生じているのではないか。
2023年度の防衛費約6兆8千億円のうち1300億円程度の使い残しも、必要予算を積み上げず「規模ありき」で予算を急増させた歪みだ。積算根拠なき「軍拡増税」の撤回を重ねて求める。
自衛隊発足から70年。国民の信頼を得られたのは、災害派遣や国際貢献などの活動を地道に積み重ねてきたからだ。安倍政権以降の軍拡路線は、自衛隊組織の持続可能性をも脅かす。その責任は防衛省・自衛隊だけでなく、自民党が率いる政権全体にある。
防衛省が自衛隊と省内で続いた不祥事に対して関係者の処分を発表した。対象は最高幹部も含めて200人を超え、異例の対応が組織の緩みや順法意識の欠如など深刻な現状を物語る。求められる抜本改革へ処分は最初の一歩に過ぎない。継続的な取り組みが問われる。
今回の処分は、特定秘密の不適切運用、海上自衛隊員による潜水手当の不正受給、自衛隊施設での不正飲食、防衛省内でのパワハラ行為に対して下され、対象は、防衛事務次官や陸海空自衛隊の各トップを含めて218人に上った。
このうち特定秘密に関しては、秘密を扱う人の身辺を調査する「適性評価」を経ていない隊員が、特定秘密を知りうるケースなどが海自を中心に50件以上確認された。4月に特定秘密のずさんな取り扱いがあったとして5人が処分されているが、大幅に不適切事例が膨らんだ格好だ。
海自では2022年、1等海佐がOBに秘密を漏えいして懲戒免職になっている。それを反省するどころか、ずさんな扱いが常態化していたと言ってよい。情報管理の枠組みが機能していないことが浮き彫りになる。安全保障政策の見直しで自衛隊の活動範囲が広がる中、ひずみが出ているとの指摘も出ている。
特定秘密保護は、知る権利にふたをして情報統制を強めた経緯があるにもかかわらず内部で緩い運用をしていたことにもなる。批判が出るのは当然だ。当該情報が特定秘密に指定するべきものなのか検証できる体制なども課題として残る。
他の不祥事では、潜水手当の不正受給は5年余りで計4300万円に上り、74人が処分された。うち11人は懲戒免職とされた。していない訓練を申告するなどしていた。また、不正飲食では、自衛隊施設の食堂で代金を払わず食事をしていた。
これらは再発防止策を検討する以前の問題だろう。善悪のはっきりした単純な窃盗、詐欺行為にもかかわらず、それがまかり通ってきた組織風土が浮かび上がる。
自衛隊を巡っては、潜水艦修理契約に絡んで川崎重工業が裏金を捻出し、海自側の乗組員が金品を受け取っていた疑惑も浮上している。防衛省は特別防衛監察の実施を決めた。潜水艦の製造や修理は2社で独占され、業者との癒着が生じやすい。競争原理が働かず予算が高止まりすれば、政府が大幅増額を決めた防衛予算にも国民から厳しい目が向く。
ほかにも組織的な課題は尽きない。元自衛官、五ノ井里奈さんによる性被害の訴えを巡ってはハラスメント体質、閉鎖性も問題になった。
昨年4月と今年4月にはヘリコプターの墜落事故が発生し、計18人の隊員が亡くなっている。組織的な要因はなかったか、究明が求められよう。
国際的な安保環境が緊張感を増す中、防衛を担うにふさわしい組織として国民の信頼を得ていくことが求められる。処分で終わりにはならない。組織の立て直しは国会でも議論していく必要がある。
特定秘密の不適切運用やパワハラなどの不祥事を受け、防衛省は指揮監督義務違反を問われた海上自衛隊トップの酒井良海上幕僚長を事実上更迭とするなど懲戒を含め218人を処分した。事務方トップの増田和夫事務次官、制服組トップの吉田圭秀統合幕僚長ら最高幹部を訓戒とした。
防衛力増強を理由とした防衛増税を前にした不祥事と処分である。今後、税負担を強いられる国民は今回の不祥事を許さないであろう。日本の防衛政策の内実が問われている。なぜ、このような事態になったのか、政府は明確に説明しなければならない。
酒井海幕長は「根底にあるのは、隊員の順法精神の欠如や組織のガバナンス能力の欠落と考えている」と述べている。この発言は防衛省・自衛隊組織の深刻な実態を如実に示すものだ。国民の監視の目から見えない組織内部で不正が長年横行し、統制が利かなかった可能性がある。
武力を保持する組織が自らの不正を律することができないというのは極めて危険である。日本は「軍部の暴走」を許し、戦争によって国を破局に追いやった経験がある。このような事態を繰り返さぬよう、防衛省・自衛隊は解体的な出直しが迫られている。
特定秘密の不適切運用では、懲戒処分26人、訓戒など89人という最も多くの処分者を出した。特定秘密保護法に基づき、秘密を扱う公務員らの身辺を調査する「適性評価」を経ていない隊員に特定秘密を取り扱わせたケースがあったという。まさに順法精神が欠けていると言わざるを得ない。
「背広組」が中心の内部部局でパワハラによる懲戒処分が出るのは初めてである。元自衛官が実名で性被害を訴えたことを機に自衛隊内のパワハラ・セクハラの横行が問題視されている。ハラスメントの一掃を急ぐべきだ。
海上自衛隊の潜水手当不正受給は、潜水艦救難艦2隻に所属するダイバーが「飽和潜水」の訓練で、2017年4月から22年10月までの間、計4300万円を水増しして受給したというものだ。隊員の潜水手当は税金ではないか。納税者である国民の目から見て許しがたい行為だ。
訪米中の岸田文雄首相は「国民に心配をかけておわび申し上げる」と謝罪したが、このような謝罪だけでは済まない。不祥事の再発防止策を確立しない限り、防衛力増強に向けた増税など到底受け入れるわけにはいかない。