祭りと女性参加 「新たな伝統」の一歩を(2024年6月29日『東京新聞』-「社説」)

キャプチャ
 各地から初夏の祭りの便りが届く。近年、伝統的に参加が認められなかった女性も活躍できる祭りが増えてはいるが、地域がこぞって祝うべき祭礼に、なおも「女性排除」の慣習が残るのは残念だ。女性も男性も手を携え「新たな伝統」を築く一歩を踏み出したい。
 下帯姿の裸男が集う愛知県稲沢市の奇祭「国府宮はだか祭」では今年、儺追笹(なおいざさ)奉納に女性の団体が参加した。願い事を記した布を付けたササを、尾張大国霊(おわりおおくにたま)神社(国府宮)に奉納した=写真。1300年近い歴史で初の出来事だ。
 また同県犬山市の「犬山祭」では2022年、女性が車山(やま)の担ぎ手を務めた。400年近くも続くこの祭りでは1997年に「女人禁制」が解かれていたが、花形である担ぎ手を女性が務めたのは、この年が初めてだった。
 津市の市無形民俗文化財の「窪田獅子舞」と「中野獅子舞」でも今年、初めて女性が参加。日本三大美祭の一つとされる岐阜県高山市の「高山祭」でも近年、男性だけだった獅子舞やからくり人形の操り手に女性が加わっている。
 こうした「門戸開放」の背景には、地方の人口減による担い手不足がある。祭礼の維持が難しくなったため、女性の手を借りざるを得なくなった、というのも現実の側面だ。無論、「男だから、女だから」という色分けに違和感が広がる現代の価値観に沿い、男性限定の決まりを改めた地域もある。柔軟な対応であり、歓迎したい。
 祭礼の「女人禁制」は、出産や月経などを「穢(けが)れ」とする神道の思想に基づくとされる。だが、研究者によると、上古から続く慣習ではない。実際に祭礼からの女性排除が広まったのは、せいぜい江戸時代中期からという。
 そのころからの「伝統」に過ぎないのだとすれば、男女の別なく参加する祭りの姿もまた、歳月を経て新たな「伝統」になろう。
 「はだか祭」に参加した女性の一人は「歴史的な瞬間に立ち会うことができてうれしい」と述べている。今はまだ祭りに加われていない地域の女性たちが同じ喜びを味わえるよう、各地の祭礼主催者らに決断を望みたい。