<ふくしま作業員日誌・66歳男性>息子よ、なぜ同じ会社に 福島第1原発(2024年6月28日『東京新聞』)

 
 イチエフ(福島第1原発)で事故やミス、法令違反などのニュースが続いている。作業員が高濃度の廃液をかぶったり、コンクリートミキサー車の作業台から足を踏み外して大けがをしたり。先日は6号機で高圧電源盤のブレーカーが落ち、使用済み核燃料プールの冷却が約10時間止まった。昨年、廃炉作業をした企業の4分の1に、割増賃金を払わないなどの法令違反があったという記事も見た。
福島第1原発の港湾内の魚類対策のため、海底の覆土作業をする作業員ら(東京電力提供)

福島第1原発の港湾内の魚類対策のため、海底の覆土作業をする作業員ら(東京電力提供)

 今は原発作業を離れているが、廃炉作業のニュースは気になる。27歳で原発で働き始めてから、事故後もずっと働いてきた。作業総点検もしたというが、これだけ続くのは何だろうな。現場で事故直後の緊張感が薄れてきていたり、若手にうまく継承できていないこともあるかもしれない。
 俺は60歳で原発作業から離れたが、事故当時高校生だった息子が、廃炉を担う同じ会社を受けてみると言ったときは驚いた。息子はすでに福島の地元企業の内定をいくつももらっていた。地元にいたいという思いは強かったと思う。福島のためにという思いもあったのかもしれない。
 妻が亡くなったのは震災前で、息子は小学生だった。そのときから俺は子どもたちの父親であり母親になった。食事も弁当を作るのも何でもやった。息子は幼かったのに「お母さん、お母さん」と恋しがって困らせることもなかった。そういえば反抗期もなかった。
 その息子も今年に入って結婚した。今は転勤で県外に住んでいるが、結婚式の前日には、息子自ら90代の妻の母親を福島に迎えに来てくれた。結婚式で妻の亡くなった後の俺や娘たち、そして義母など家族への感謝の気持ちを述べたときはみんな泣いていた。相手の両親も泣いていた。
 俺自身、原発を離れた今も、少しでも役に立ちたいと地元で働いている。息子も同じ気持ちかもしれない。いつか聞いてみたい。なぜ同じ会社に入ったのか。 (聞き手・片山夏子)