国会の改憲論議 「数の力」の慢心捨てよ(2024年6月28日『東京新聞』-「社説」)

 
 23日に閉会した通常国会自民党改憲原案を提出せず、党総裁の岸田文雄首相が目指す9月までの総裁任期中の改憲実現は困難になった。
 そもそも改憲が必要な切迫性はなく、裏金事件で信頼を失った自民党には改憲を主導する資格もない。改憲に拘泥せず、暮らしの立て直しを優先すべきである。
 通常国会では衆院で9回、参院で4回、憲法審査会で実質的な議論が行われた。審査会での議論は2021年10月の岸田政権発足以降、衆院で49回、参院で21回に上る。改憲に強い意欲を持っていた安倍晋三政権より頻繁だ。
 一部の条項では論点整理も行われている。特に、大規模災害などで国政選挙の実施が困難になった場合、国会議員の任期を延長する緊急事態条項創設を巡り、衆院の自民、公明、日本維新の会、国民民主各党と院内会派「有志の会」の5会派は、慎重な立憲民主党抜きで条文化を進めようとした。
 もっとも現行憲法は、衆院解散後の緊急事態発生を想定し、参院のみで国会の機能を維持する緊急集会規定を明記する。参院側は同規定を重視し、自民内にも緊急事態条項創設に慎重論がある。
 幅広い合意があると言い難く、衆院の5会派が「数の力」による
条文化を断念したのは当然だ。
 16年の参院選後、衆参ともに改憲に前向きな勢力が、国会発議に必要な3分の2以上を占める状態が続く。衆院5会派の「立民切り」の姿勢には、多数であるが故のおごりがにじむ。
 憲法審運営の基礎を築いた初代衆院憲法調査会長の故中山太郎氏は生前、改憲勢力が衆参で3分の2以上になったことについて、与党内に芽生えた「いざとなったら押し切れる」との慢心が与野党を分断し、建設的な議論を阻害していると指摘していた。
 憲法はどの政治勢力が権力の座に就こうとも従うべき基本法改憲が必要だとしても、政権を担う可能性がある野党と幅広い合意を目指すことが当然だ。裏金事件を機に、政権交代の可能性が取り沙汰されるならなおさら、多数派は慢心を捨てなければならない。