円安・物価高が長期化する中、岸田政権は定額減税や電気・ガス代の補助金といった経済政策を打ち出し、世論の不満に対処してきた。ただ、最重要課題としてきた賃上げが物価高騰に追いつかず、実質賃金のマイナスは過去最長を記録。発足当初、中低所得者への分配を重視して掲げた「新しい資本主義」は、生活実感の向上を実現できず、政権が目指す「成長と分配の好循環」は道半ばだった。(白山泉、高田みのり)
◆支持が低下するにつれバラマキが増えていった
岸田首相は昨年秋、物価高対策として3兆円規模の定額減税を突如、打ち出した。納税者本人とその扶養家族を対象に、住民税と所得税から1人当たり計4万円を控除する内容だが事務手続きが煩雑。「増税メガネ」と批判されたことへの挽回策とも指摘され、経営者からは「岸田さんのアピールのためにかえって手間が増えている」などの批判も相次いだ。
2022年以降に始まったガソリン、電気・ガス代を対象とした補助金についても、燃料費高騰を背景として、当初の予定期間を度々延長した。投じられた予算は約10兆円に上る。みずほ証券の松尾勇佑氏は「党内の(政治とカネの)問題などで支持が落ちていったため、国民の支持を得やすい政策に徐々にシフトしていった」とバラマキ政策が増えていった経緯を振り返る。
岸田政権が始まった21年10月の対ドルの円相場は1ドル=110円台前半だったが、22年以降は超円安・物価高が定着。春闘では2年連続で大幅な賃上げが行われたにもかかわらず、実質賃金は22年4月から26カ月連続で減少した。労務費の価格転嫁が行われているかを調べる調査員(Gメン)を増やすなど中小企業の賃上げ支援に力を入れたが、賃上げの裾野の広がりは十分とは言い難い。
一方、物価高を加速した円安は、安倍政権時代から日銀が大規模な金融緩和を続けてきた「負の遺産」でもある。このため3月のマイナス金利解除や7月の追加利上げなど日銀に金融政策の正常化を促し、いったん円安に歯止めをかけた。しかし政策転換は緒に就いたばかりだ。金融市場の混乱に対処しながら物価高を抑える正常化ができるか、次期首相には重い課題が引き継がれる。
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