高齢になっても働き続ける人が増えている。社会構造の変化に合わせた労働環境の整備が急務だ。
働いている高齢者は914万人に上り、ここ10年で4割以上増えた。65歳以上の4人に1人、65~69歳に限れば2人に1人の割合だ。高齢者の就業率は主要7カ国(G7)の中で最も高い。
寿命が延び、老後が長くなった。元気に「生涯現役」を目指し、仕事を介して社会とのつながりを保ちたい人もいれば、生活不安から収入を求める人もいる。
企業も人口減に伴う人手不足の中、高齢の働き手に頼らざるを得ない。力仕事など不慣れな職場に配置する場合もある。
その結果、深刻化しているのが高齢者の労災だ。昨年、事故や病気で労災認定された人は過去20年で最多の約13万5000人で、うち約4万人が60歳以上だった。
目立つのは転倒や転落だ。筋力低下や持病の影響などでリスクが高まる。60歳以上の女性が仕事中に転倒で骨折する割合は、20代女性の約15倍に達する。建設や介護などの現場で特に事故が多い。
「床をぬれたままにしない」「室内を明るくする」といった日々の工夫で事故が減らせることも紹介している。だが意識は高まっていない。指針に沿った対策をしている企業は目標の50%に対して10%台にとどまる。
このため厚労省は、高齢者の安全を守る環境改善を企業の責務と法律に定める検討を進めている。労働者側からは、現役世代との体力差を考慮して高齢者の労災認定を受けやすくする仕組みを作るべきだとの声も出ている。
政府は定年の延長や高齢者の再雇用を後押しする法改正を重ね、今は希望すれば70歳まで働けるようにすることが企業の努力義務となっている。元気な高齢者には、社会保障制度を支える側に回ってもらおうという思惑もある。
個々の特性に合わせた職場環境が整わなくては、高齢者も安心して働けない。官民を挙げた取り組みの強化が急がれる。