このままでは町のお米屋さんがつぶれる! 仕入れ価格が「半端ない」値上がり…小さな店ほど苦しい事情(2024年6月19日『東京新聞』)

 
 町の小さな米屋が、米の価格高騰にあえいでいる。昨夏の猛暑による米の品質低下などを背景に、スーパーなど大手小売店とは異なる流通形態をとる一部の中小零細の米穀店で、仕入れ価格が急騰した。販売価格への十分な転嫁ができず、経営危機に直面している。(砂本紅年)

◆特に厳しいのは業務用の「低価格米」

これまで経験したことがないという米の値上がりに「当分我慢するしかない」と話す米穀店の店主=14日、東京都内で(砂本紅年撮影)

これまで経験したことがないという米の値上がりに「当分我慢するしかない」と話す米穀店の店主=14日、東京都内で(砂本紅年撮影)

 「今までにない値上がり。半端じゃない」。東京都港区の老舗米穀店の店主は厳しい表情で訴えた。
 値上がりが顕著なのは、飲食店などに販売する業務用の低価格米。千葉県産の仕入れ値は昨年9月から3割上昇した。「これでも業者に無理を言って下げてもらった。お客さんに全ては上乗せできないので、半分は自分でかぶるしかない」
 農林水産省によると、コロナ禍のときは米の在庫が積み上がり、価格が下落。産地は昨年まで2年連続で自主的に生産を抑制した。今年4月末時点の年間需要量に対する民間在庫量「在庫率」は5年前に次ぐ低い水準だが、「逼迫(ひっぱく)している状況にはない」と同省担当者。米価格の指標となる相対取引価格と店頭価格は、前年同月比で1割前後上がった。ただ以前が安かったため、「コロナ禍前の価格に戻りつつある」水準だ。

◆小口の取引米が急騰、小規模店に打撃

 実は今回急騰しているのは、卸売業者など仲間内で融通し合うスポット取引だ。取扱量は少なく、相場全体への影響は小さいが、玄米を保管する低温の大型倉庫や年間契約で支払う資金力がない小さな米穀店は、月ごとにスポット取引をしている場合が多い。
 中小零細の米穀店が加盟する東京都米穀小売商業組合によると、代表的な低価格米のスポット取引価格は昨年秋、60キログラム当たり1万3500円程度だったが、足元では2万3000円程度と約1.7倍に。組合員から「仕入れが厳しい」という声が多く届いている。

◆猛暑やインバウンド需要が悪影響

 昨年産米は猛暑による品質低下で、玄米を白米にする精米後の歩留まりが悪かった。「足りないという感覚は誰もが抱いている」と同組合の担当者。インバウンド(訪日客)による需要増なども、高騰につながっているとみられる。ただ、安定した相対取引で小幅の値上げしかしていない大手小売店以上には値上げしにくい。業者によっては「売れば売るほど赤字だろう」という。
米の価格急騰で苦境に陥っている米穀店

米の価格急騰で苦境に陥っている米穀店

 もともと米消費量の減少や店主の高齢化で、米穀店を取り巻く状況は厳しい。前出の港区の店主は「政府は小さな米屋なんて見ていない。つぶれろと思っている」と嘆く。江東区の米穀店店主も「これを契機にやめる人は増えるだろうね」とつぶやいた。
 農水省が各都道府県に4月末時点での今年の作付け意向について調査したところ、主要な米どころで米の増産が見込まれている。米穀店は新米が出回るまで我慢を強いられる。

 米の取引 中心は「相対取引」で、全国農業協同組合連合会JA全農)など出荷業者と卸売業者との間で銘柄ごとに価格を決める。年間契約が多い。取扱量の大半を占め、米価格の指標として農林水産省が毎月公表している。他に、卸売業者などが米を必要とする買い手に取引条件を示して米を転売する「スポット取引」や、生産者が消費者に直接販売する「産直」などがある。