教員の待遇改善 労働時間をいかに削減するか(2024年6月17日『読売新聞』-「社説」)

 「教育は人なり」と言われるように、学校教育の成否のカギは教員が握っている。良質な教員が増えるように処遇を改善し、働きやすい環境を整えることが大切だ。
 その一つが「残業代」である。文部科学省中央教育審議会特別部会が公立学校教員の待遇改善策をまとめた。残業代の代わりに基本給の4%を一律支給してきた教職調整額を引き上げ、「10%以上」に改めるよう求める内容だ。
 教職調整額は、1972年施行の教員の給与等に関する特別措置法(給特法)で4%とされた。当時の残業時間は月8時間程度で、これに合わせて設定された。
 しかしこの半世紀で、学校が直面する課題は複雑かつ多様化している。文科省の調査では、国が上限とする月45時間を超える残業をしていた教員は、小学校で65%、中学校では77%に及ぶ。
 4%の支給は現状との隔たりが大きく、今の勤務実態に見合っているとは言えない。長時間労働が敬遠され、なり手不足が深刻な教員の人材確保という観点からも、引き上げは当然だろう。
 文科省は来年の国会で給特法を改正し、2026年以降の教職調整額引き上げを目指している。
 一部には、給特法を廃止し、時間外勤務に応じて残業代を支払うよう求める声もあるが、支出が一気に膨張する恐れもある。国や地方の厳しい財政事情を考えると、教職調整額の引き上げは、現実的で妥当な選択だと言えよう。
 だからといって、いくらでも残業させていいわけではない。大切なのは、業務の効率化を図り、労働時間を削減することだ。
 特別部会は今回、小学5、6年生で導入している「教科担任制」を3、4年生に拡大することや、負担の重い学級担任の手当増額などを求めた。このほか、全中学校への生徒指導担当教員の配置なども提言している。
 非効率な会議を減らし、行事の簡素化を進めるなど、各学校の運営を見直すことも必要だ。中学校の部活動指導については、外部の指導員を活用して、教員の負担軽減を図ることも推進したい。
 教員の待遇や労働環境を改善することは、学校現場に優秀な人材を呼び込み、教育の質を高めることにもつながる。
 民間企業では、人材の獲得競争が激しさを増し、賃上げの機運も高まっている。このタイミングを逃せば「教員離れ」がますます加速しかねない。政府は本腰を入れて、取り組まねばならない。