外国人材の意欲と安心高める育成就労を(2024年6月17日『日本経済新聞』-「社説」)

新制度の育成就労は日本語能力と技能の段階的な向上が重要になる(建設現場で作業する技能実習生)
 外国人労働者の受け入れで、技能実習に代わる育成就労制度を新設する技能実習法と出入国管理法などの改正法が成立した。賃金不払いなど問題の多い技能実習と同じ轍(てつ)を踏んではならない。政府と企業は不断の改革に取り組むべきだ。
 育成就労は3年間の就労を基本とし、技能水準の高い別の在留資格「特定技能」に移り、長く日本で活躍してもらうことを目指す。段階的に試験を課すため、日本語能力と技能を着実に高めることが必須となる。政府は新制度を2027年にも始める方針だ。
 受け入れ企業の責任は増す。外国人に学ぶ機会を十分に提供し、支援する必要がある。「安い労働力」と見なすだけでは、人材の定着はおぼつかない。働きや技能を正当に評価し、意欲と安心感を高める待遇改善が不可欠だ。
 新制度は同じ業種内で転職が可能となるが、時期は就労後1〜2年の範囲で業種ごとに定める。制限期間はできる限り短くすべきだ。転職をあっせんするハローワークも体制整備が急務となる。
 技能実習生が来日時の手数料として多額の借金を背負い、失踪を招いている問題は解消すべきだ。政府は送り出し国と新たに取り決めを交わし悪質なブローカーを排除するというが、透明性と実効性を担保する仕組みが要る。
 受け入れ窓口となる監理支援機関と企業の癒着を防ぐことも課題だ。新たに外部監査人の設置を義務付けるが、監理支援機関になる要件を厳格化し、監視体制も強める必要がある。今後の詳細な制度設計で従来の不備を解消し、技能実習制度から大きく改善されることを国内外に示してほしい。
 今回の法改正では、税や社会保険料の納付を故意に怠った場合に永住許可を取り消せる規定も盛り込まれた。悪質な場合に限った措置であり、ほかの在留資格への切り替えを検討する。
 外国人などからは懸念の声も聞かれる。人材の定着を目指す育成就労と逆行するメッセージにならないか心配だ。政府は具体的なガイドラインを示すという。永住者の不安や混乱、社会の分断を招いてはならない。明確で丁寧な説明と慎重な運用を求めたい。
 本来、政府が急ぐべきは外国人が安心して働き、暮らせる環境づくりだ。家族を含めた日本語教育と生活支援など、国が前面に立って施策を進める必要がある。