鹿児島県警は説明を尽くせ(2024年6月15日『日本経済新聞』-「社説」)

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鹿児島県警に対する不信が深まっている=共同
 鹿児島県警への不信が深まっている。職務上の秘密を外部に漏らしたとして逮捕された同県警の前幹部が、警察官の犯罪を野川明輝本部長が隠蔽しようとしたと告発した。本部長は否定している。
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野川明輝本部長
 県警の幹部だった人物がトップの不正を告発する事態は異常である。事実解明と説明を尽くさねばならない。
告発したのは前県警生活安全部長の本田尚志容疑者。裁判手続きで、警察官の盗撮事件について本部長が捜査に着手しようとしなかったことが許せず、記者に資料を送ったと述べた。前部長の弁護士は「公益通報に該当し、漏洩の罪は成立しない」と主張している。
 本部長は報道陣の取材や県議会での答弁で「隠蔽を意図して指示したことはない」などと反論したが、詳細は語っていない。これでは到底、説明責任を果たしたとはいえない。
 警察庁は同県警に対する監察を実施する方針だという。県警だけでなく、警察全体に厳しい目が注がれていることを肝に銘じ、徹底的に調べるべきだ。検察にも、逮捕の妥当性を含めた公正な捜査を求める。
 鹿児島県警をめぐっては、捜査書類の速やかな廃棄を促す内部文書を作成していたことも明らかになっている。書類の保管が再審や国賠請求で「組織にプラスにならない」ためとしていた。内容を疑問視する声があがり、その後改めたという。
 過去にも捜査当局が伏せていた資料が再審開始につながったことがある。警察の捜査資料は事実解明のためにあり、公共の財産といえる。そうした価値を否定し、組織防衛を優先する姿勢は言語道断だ。どのような経緯で文書を作成したのかも明らかにすべきだ。
 県警の不祥事を報じてきたネットメディアが、情報漏洩の関係先として県警の強制捜査を受けたと抗議している。表現や報道の自由を侵害する可能性があり、見過ごせない。この点についても真摯な説明を求めたい。