住民投票条例 なぜ「直接」問いたいのか(2024年6月15日『東京新聞』-「社説」)

 愛知県日進市の「道の駅」建設を巡り、市民が5月、その賛否を問う住民投票の実施を求めたが、必要な署名数にわずかに届かなかった。愛知県豊橋市では、多目的施設の建設に対し、市民が住民投票条例案の提出に必要な署名数を集めたものの、議会は2月に否決した。ともに投票実施には至らなかったが、こうした動きが相次いで、相当数の署名が集まる背景には「間接民主主義」への不信があろう。首長や議会はそれを真摯(しんし)に受け止めるべきだ。
 豊橋市では、前市長時代の計画見直しを訴えて初当選した現市長が、「比較検討の結果」、当初通りの計画を打ち出したため、市民団体が昨年と今年の2回、住民投票に必要な署名数を集めた。だが議会はいずれも否決した。
 課題が生じるたび、住民投票条例案を成立させる必要がある豊橋市と違い、日進市は、一定の要件を満たせば、議決を経ずに投票を実施すると条例で定めている全国80ほどの自治体の一つ。住民側は1万3千筆の署名を提出したが、選管の審査の結果、実施に必要な「有権者の6分の1以上」に200筆ほど足らなかった。
 首長と議会によらず、直接、民意を探る手段が住民投票だ。地方自治研究機構によると、市町村の合併や首長、議員の解職請求を除く重要争点型の住民投票は、新潟県巻町(現新潟市)で1996年に原発建設の可否が問われ、反対が多数を占めて以降、50件実施された。三重県海山町(現紀北町)の「原発誘致」や愛知県小牧市の「新図書館建設」のように施策を決定付けた事例も少なくない。
 豊橋、日進の計画は数十億~100億円超の大型事業だが、経緯をみると、首長や議会が議論を尽くし説明責任を十分果たしたとは言い難い。市の財政や生活環境の変化などを懸念した市民が「直接」に訴えたことは理解できる。
 だが、もとより、すべての課題を住民投票で決することは現実的でない。大半の住民投票条例が、結果で首長や議会を縛らず「尊重する」よう求めるだけなのは、選挙で選ばれた代表に諸課題への対応を委ねる間接民主主義が地方自治の基本だからだろう。
 常に丁寧な説明と合意形成に努めてきたか-。首長や議会は、住民の「直接」への傾斜を「間接」のあり方を自らに問い直す契機とすべきだ。