減税帳消し〝給与明細ショック〟「20万円負担増」の実態 一時的に恩恵、複雑な税制で徐々に徴収…定額減税では消費喚起効果は限定的(2024年5月29日『夕刊フジ』)

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岸田首相は定額減税の「恩恵」を強調するが…
■6月から定額減税
6月から所得税と住民税の定額減税が実施される。給与明細に減税額の記載を義務付けて「恩恵を実感いただく」と岸田文雄首相は言うが、「4万円」では消費喚起効果は限定的だ。政府のいう通り給与明細をよく見ると、目立つのは直接税や社会保険料の負担増で、この10年間で平均「20万円」も増えている。識者は「負担増は半永久的に続く」と警告する。
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【表でみる】10年間で平均「20万円」増も…直接税・社会保険料の推移
■「可処分所得」3年連続で減少
岸田首相は22日の参院予算委員会で「来月から国民は減税効果を実感できる。集中的な広報など発信を強めていく」と説明した。
定額減税の給与明細への明記に関する作業が追加された場合、企業の経理担当者の事務負担が計約40~52時間増えるとの民間の試算もある。
よく見ろというから、給与明細をチェックすると、減税の額よりも「こんなに引かれているのか」と改めて気付く人も多いのではないか。
国民や企業が所得の中から税金や社会保険料をどれだけ払っているかを示す「国民負担率」は、2013年度に40・1%だったが、22年度は過去最高の48・4%まで上昇した。24年度も45・1%と高水準が続く。「五公五民」といわれるゆえんだ。
総務省の家計調査をもとに、2人以上の勤労者世帯の1年間の直接税(所得税・住民税など)と社会保険料の平均について、13年度と18年度、そして直近の23年度で比較したのが別表だ。介護保険料や公的年金保険料、所得税などが増加傾向にあり、直接税と社会保険料などの合計は13年度から23年度で約20万円増えている。
一方、実収入から直接税や社会保険料などを差し引いた「可処分所得」は、21~23年度まで実質で3年連続で減少している。特に23年度は対前年比4・5%減と大幅に落ち込んだ。
ユーチューブなどで税制などについて発信している税理士の板山翔氏は「年収400万円の40歳以上の世帯について、09年と24年で比較して試算すると、健康保険と厚生年金だけで年間9万~10万円近くの負担増となっている。09年当時は消費税率も5%だったこともあり、世帯年収などが同じ条件でも、15年前とは可処分所得に大きな差がある」と解説する。
政府が定額減税をアピールする半面、75歳以上の医療保険料は24~25年度に段階的に引き上げられる。現役世代も扶養控除や配偶者控除の見直しが議論の対象だ。
前出の板山氏は「増税に打って出れば、世論の批判は免れないだろう。今回の定額減税のように一時的に恩恵を与えながら、複雑な税制で徐々に徴収していくというのは、世界各国で行われる常套手段だ」と強調した。
今後も家計への懸念材料は多い。6月使用分(7月請求)の家庭向け電気料金が大幅に値上がりする。価格を抑える補助金の終了に加え、電気料金に上乗せする再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)も4月に引き上げられたばかりだ。
26年度には少子化対策の柱となる「子ども・子育て支援金」が創設される。支援金は月50~1650円の負担になると試算されている。来月からは森林環境税の徴収(年1000円)も始まる。
■永濱利廣氏、5兆円は支援より将来の負担増回避策に活用する方が賢明では
第一生命経済研究所の永濱利廣首席エコノミストは「控除の縮小案や、国民年金の保険料納付期間を5年延長する案などが浮上している。日本のここ10年の国民負担率の上昇幅は、他のG7(先進7カ国)諸国の2倍以上だ。今後もこの流れが続く可能性もあり、半永久的な負担増が懸念される」と指摘する。
個人消費は冷え込みが続き、1~3月期の実質国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値でも4四半期連続の減少となった。リーマン・ショックが直撃した09年1~3月期以来15年ぶりだ。
岸田首相側近の木原誠二幹事長代理は26日のフジテレビ番組で、定額減税の来年以降の継続も示唆した。
永濱氏は「定額減税では消費喚起効果は限定的だろう。給付の方が効果が大きかったのではないか。給与明細を見る人が増えれば、政府の思惑とは逆に、国民が負担増を実感する機会となりかねない。定額減税や給付など今回の支援策に約5兆円の予算を使うのであれば、将来の負担増を回避する施策に活用する方が賢明だったのでは」と語った。
 

森林環境税」6月から1人年額1000円徴収 森林整備目的の交付金4割使われず…「無駄増やしてほしくない」厳しい意見も(2024年5月29日『FNNプライムオンライン』)
 
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6月から導入される「森林環境税」。1人当たり年間1000円徴収されるものだが、その使い道が議論になっている。
 
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6月から始まる「森林環境税」の仕組みをチェック
 
森林整備目的の交付金 使用状況に差
6月から始まる新しい税金「森林環境税」とは、国内の森林整備を目的としたもので、納税義務者約6200万人から、1人年間1000円徴収され、年間で約620億円の税収が見込まれている。住民税に上乗せする形で徴収し、国に納められた後、都道府県や市町村に配分される。
森林整備を目的とした交付金は、2019年度から「森林環境譲与税」として始まっていて、国庫から各市町村に配布されている。森林の面積が大きい静岡・浜松市では、2022年度分の交付金を森林整備に加え、整備に関わる人材の育成などで使い切った。
一方で、人工林の面積がゼロの東京・渋谷区は、開始から5年間で9857万円が配布されたが、使用したのは2023年に公共施設を建て替えた際の900万円のみで、残りの約9000万円は使われず眠ったままになっている。渋谷と同様に使いきれない状況は他の市町村でも確認されていて、各市町村に4年間で配分された約1280億円のうち、約4割に当たる494億円が使われずにいる。
こうした中で新たに導入される森林環境税について、納税者からは賛否の声が聞かれた。
「何のための税金?取られたくないよね」(70代女性)
「それがどんどん増えていったら厳しい。あまり無駄な使い道を増やしてほしくない」(40代女性)
「森林がないところだったら、あるところに譲ればいいし、うまく融通きかせればいい」(60代男性)
森林環境税の問題点、今後の課題は
疑問点が多い森林環境税だが、国民の1000円はどのように活用されるのか、今後の課題は何なのか、森林整備の政策に詳しい東京経済大学の佐藤一光教授に話を聞いた。
まず、「1000円上乗せ」というと、復興特別税を思い浮かべた人もいるかもしれない。復興特別税は、2011年に起きた東日本大震災を受けて2014年から復興を目的に、個人住民税に年間で1000円上乗せされて徴収されていたが、2023年に終了した。このタイミングで森林環境税の徴収が始まるわけだが、佐藤教授は、国民への負担に配慮しているといえるとの見方を示している。
「2019年から既に森林環境譲与税の交付が始まっています。ですので、そのタイミングで増税するのではなく、今の復興特別税の1000円がなくなったというタイミングで増税するのは、ある意味では負担に対する配慮と言うことができるでしょう。しかし、このタイミングでの増税というのは、復興増税してその分の税収を下げるのが嫌だから、そのまま残しておこうというふうに疑われても仕方がないと思います」
ただ、課税方法については問題点があると指摘する。
「森林を整備していく、再造林をしていくということは、カーボンニュートラルなどを考えると、とても大切な分野になってくるわけですね。ただし、100億円所得がある人も200万円の所得の人も1000円というのは不公平。逆進的と言って、非常にダメな税金のタイプだというのは、ほとんどの専門家がそう思っているはず。その上で、カーボンニュートラルだったらカーボンタックスの方がいいんじゃないかということなんですよね」
一方、2019年から既に始まっている森林環境譲与税が、これまで4年間で約1280億円配分されたうち39%の494億円が活用されていないという状況については、次のように説明した。
「活用されていないというと、やや誤解があります。例えば都市部で使う時には、学校や図書館などの公共施設を国産の木材を使って建て替えたり、改築したりしようと、そのために貯めているんですね。実は自治体は、日常的にインフラを整備するためのお金を貯めていて、未活用と言っていますが、将来のために貯めているという面があります。
森林環境譲与税が森林がない自治体にも交付されているのは、国内の木をうまく使ってほしいということなんです」
では、逆に森林が多い自治体ではうまく活用できてるのか。
「今どれぐらい積み立てているのかというので、森林が多い自治体と少ない自治体があるんですが、現在のところ森林が多い自治体では1%ぐらいの自治体が積み立てていて、少ない自治体は20%ぐらいの自治体が積み立てているので、やはり少ない自体の方がうまく使えていないという実情はあります。
ただし、森林の多い自治体でも林業担当の方がいないというパターンがあって、この場合うまく使えていないということがあります」
実際に、人材不足で活用できていないというケースもある。愛媛・大洲市では、分配された金額のうち2億円は活用したが、1億2000万円は積み立てているという。大洲市の担当者によると、森林業者などが少ないということで、整備することよりも、まずは人材育成の場を作ることを計画しているそうだ。佐藤教授も人材育成の重要性を強調している。
「人口減少の日本ですから、これから人に投資していくことがとても重要になってきます。林業は、賃金が低いが、危険度が高くて事故も多く、非常にハードな仕事。これを魅力のある仕事にしていく。このためにお金が使えると、ちょっと未来の明るい日本になるんじゃないでしょうか」
(「イット!」5月29日放送より)