国に原発事故の責任はないのか―。東京電力福島第1原発事故を巡り、国の賠償責任を否定した最高裁判決から2年となる17日、被災者や訴訟の支援者らが最高裁を囲む「人間の鎖(ヒューマンチェーン)」で抗議の意思を示す。今も裁判で闘う原告らは「このまま国が責任を取らず、事故がなかったことにされたら、また事故は起きる。子や孫に残す将来は大人の責任」と訴える。(片山夏子)
◆判事1人の反対意見が救いだった
「国が東電に対策を命じても事故は防げなかった。国に賠償責任はない」
最高裁は2022年6月17日、東電の責任を認めた一方で、国の責任をそう否定した。当時、最高裁前で判決を待っていた福島県伊達市の農業佐藤紫苑(しおん)さん(38)は、すぐには頭に入ってこなかった。「対策しても事故は防げなかったから、対策させなくても責任はないってこと?」。原発は国が進めてきたのではないのか。防げなかったとしても取れる対策はするべきだったと思った。
救いは、裁判官4人のうち1人が反対意見だったことだ。「(国の規制権限は)原発事故が万が一にも起こらないようにするために行使されるもの」「原子力安全・保安院(当時)と東電が真摯(しんし)な検討をしていれば事故を回避できた可能性が高い」。そこには求めていた答えがあった。
◆「今まで無関心で申し訳なかった」
紫苑さんは11年3月の事故時、福島市にいた。「窓を開けるな」「外出から帰ったら服はビニール袋に入れて」と注意喚起があり、6歳と3歳の息子は外で遊べなくなった。「でも大丈夫だと思い込もうとした。裁判はもっと原発に近くて家に住めなくなったりした人のものと思っていた」。当時は集団訴訟の原告には加わらなかった。
だが最高裁判決の中身を聞き、国が責任を取らないままでは再び原発事故が起きると感じた。「今まで無関心で申し訳なかった。これからの子どもたちを考え、自分のこととして考えなくては」。夫の巴胤(ともつぐ)さん(41)とともに、第1陣が最高裁判決を受けた福島生業(なりわい)訴訟の第2陣の原告になった。第2陣の原告は、最高裁判決後に新たに700人近くが加わった。
◆「1回の判決で終わりじゃない」
各地の集団訴訟の判決は今、最高裁判決に足並みをそろえるように国の責任を否定する。紫苑さんは疑問を感じる。「最高裁判決でも裁判官によって意見が違った。最高裁で一度、判決が出たら終わりではない」と闘い続ける。
2年前の最高裁判決の原告だった第1陣訴訟の服部崇さん(53)は「事故を二度と起こさないよう、闘い続けている全国各地の原告らの存在に救われている。おかしいと思ったことには声を上げ続けなくては」と語る。17日はヒューマンチェーンに加わり、思いを共有するつもりだ。
原発被災者訴訟 2011年3月の原発事故後、被災者が国や東電に賠償を求める集団訴訟が全国で約30件起こされた。最高裁は2022年6月17日、福島、群馬、千葉、愛媛で提訴された4件について「津波対策が講じられていても事故が発生した可能性が相当ある」として国の賠償責任はないとする統一判断を示した。裁判官4人のうち3人の多数意見。検察官出身の三浦守裁判官が、国の責任を認める反対意見を出した。4件の原告総数は約3700人。二審判決は、群馬以外の3件で国の責任を認めていた。最高裁判決以降、各地の地裁と高裁の判決は、いずれも国の責任を否定した。
◇ ◇
◆被災者や株主代表訴訟の原告たちが参加
17日に最高裁を囲むヒューマンチェーンには、最高裁判決を受けた被災者、子どもの被ばくの責任を問う訴訟や東電株主代表訴訟の原告団、原発事故の刑事訴訟を支援する団体などが参加する。正午から午後1時まで、最高裁の皇居側にある東門付近から青山通り沿いを経て、国立劇場手前の西門近くまでの1キロほどを取り囲む。
主催団体の「6.17最高裁共同行動実行委員会」は、16日午前10時から明治大駿河台キャンパス(千代田区)リバティタワー1階でプレイベントを開催。安孫子亘監督作品のドキュメンタリー映画「決断」を上映する。午後1時からは、2014年に福井地裁で関西電力大飯原発3、4号機の運転差し止めを命じる判決を出した元裁判官の樋口英明さんらが講演する。入場無料。(荒井六貴)