米軍が横田基地内の「飲用水井戸」休止を検討 米国のPFAS「新規制」が影響か 汚染放置につながる恐れ(2024年6月9日『東京新聞』)

 
 東京・多摩地域の水道水源の井戸で発がん性の疑われる有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)が高濃度で検出されている問題で、汚染源の可能性がある米軍横田基地福生市など)が、米国の飲用水の新規制値を満たさないとして、基地内の飲用井戸の運用停止を検討していることが、政府関係者への取材で分かった。厳しくなった新規制で、米軍が地下水の除染や汚染源の特定に取り組む可能性があるが、その機会が失われかねない。(松島京太)

 多摩地域のPFAS汚染 米軍横田基地で2010〜23年、PFASを含む泡消火剤などの漏出事故が計8回発生。12年発覚の事故では泡消火剤の原液約3000リットルが土壌に漏出したが、米軍は基地外への影響を否定している。都の地下水調査では、基地南東の約1キロ地点で、強制力のない日本の暫定指針値(PFOSとPFOAの合計値で1リットル当たり50ナノグラム)の27倍を検出。これは都内最高値。基地周辺の地下水は西から東に流れているとされ、都が19年以降に取水を停止した井戸40カ所は全て基地の東側にある。

 米環境保護庁(EPA)は4月、飲用水に含まれるPFASの一種のPFOS(ピーフォス)とPFOA(ピーフォア)の規制値を1リットル当たり4ナノグラムとし、これをクリアしなければならないと定めた。従来は両物質の合計値1リットル当たり70ナノグラムを勧告値とし、強制力はなかった。新規制値は、在日米軍基地にはまだ適用されていないとみられる。
横田基地内の飲用井戸とみられる設備=東京都福生市で(松島京太撮影)

横田基地内の飲用井戸とみられる設備=東京都福生市で(松島京太撮影)

 米軍関係者によると、基地内の飲用井戸は12カ所。基地の2021年版水質報告書では、井戸から浄化処理後でPFOSとPFOAの合計値が1リットル当たり5~29ナノグラムが検出されていた。
 米軍は、昨年3月に新規制値案が公表された際、在日米軍への適用を想定。飲用井戸の運用を止め、地元自治体の水道局の水道水で飲用水をまかなう案を同時期に日本政府側に示した。
 基地内の飲用水は井戸と水道局の水道水を併用しているが、水道水が飲用水に占める割合をほぼ100%にし、一部井戸は緊急時に備えて維持する案という。

◆水道水購入なら「米軍が積極的に除染に乗り出す必要性失う」

 都水道局は19年以降、PFAS濃度が高い水源井戸40カ所で取水を止め、多くの浄水施設でPFOSとPFOAの合計値は1リットル当たり5ナノグラムを下回っている。
 政府関係者は「米軍が水道水に切り替えることで新規制値をクリアできれば、米軍が積極的に地下水の除染に乗り出す必要性を失うことになる」と危惧。汚染源特定や地下水の除染が進まず、長期間にわたり汚染が放置される恐れもある。
 在日米軍広報部は取材に、井戸の運用停止に触れず、「横田基地と日本政府の間で現在、EPAの新規制値に伴う水道水購入について協議していない。新規制値が海外の米軍基地、特に在日米軍基地にどう適用されるか注視している」と回答した。
 市民団体「PFAS汚染を明らかにする立川市民の会」事務局の佐々木憲幸さん(68)は「汚染の原因をつくったのなら浄化作業をするべきなのに、汚れていない水を買って対処するのは本末転倒であり、許せない」と批判した。
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◆米軍、ドイツでは装置を設置し、地下水浄化に積極的

 米国の飲用水PFAS規制が厳格化され、ドイツでは汚染源と特定された米軍基地で、米軍が地下水の浄化を積極的に進めている。
地元メディアにPFAS除去の取り組みを説明する米軍担当者=2024年4月、ドイツ・アンスバッハ駐屯地で(同駐屯地提供)

地元メディアにPFAS除去の取り組みを説明する米軍担当者=2024年4月、ドイツ・アンスバッハ駐屯地で(同駐屯地提供)

 米軍準機関紙の星条旗新聞によると、米国で新規制値が設定された4月、ドイツ南部の米軍アンスバッハ駐屯地では、地下水からPFASを除去する浄化装置を設置する新たな計画が始まった。日本政府関係者は「米軍が自分たちの飲み水を確保するためにも、環境改善に取り組んでいる」と指摘した。
 環境省によると、2012年以降、ドイツ政府が調査でPFASの汚染源として米軍5施設を特定した。