医薬品の不足が慢性化している。後発薬(ジェネリック医薬品)の生産が追いついていないためだ。利用拡大を進めてきた国は、安定供給に向けた対策を講じるべきだ。
特に、せき止め薬など身近な薬の不足が目立つ。国の有識者会議は「医薬品が安定的に供給されるという『神話』は崩壊の危機にある」と警鐘を鳴らす。
2020年以降、製造過程での不正が発覚し、業務停止となるメーカーが相次いだ。業界全体としての生産能力が低下し、品不足が広がった。
背景にあるのは、品質管理体制や収益構造の脆弱(ぜいじゃく)さである。
国内に約190社ある後発薬メーカーの8割は中小だ。多くの企業がせめぎ合い、少量多品目の生産が恒常化している。新薬の特許切れに合わせて扱う品目も次々変わる。利益率が低く、品質管理にしわ寄せが生じやすい。
一方、市場は拡大している。
政府は医療費抑制のため、新薬から割安な後発薬への切り替えを促し、この15年で使用割合は35%から80%に急増した。こうした変化に業界の体制が追いつかず、ビジネスモデルの見直しや生産能力の増強は置き去りにされてきた。
厚生労働省の検討会は先月、企業連合や合併による業界再編を提言した。安全性を高めつつ安定供給を図れるよう、業界は経営体力の強化と品質管理の向上を進める必要がある。
政府は今後5年を集中改革期間と位置付ける。企業間の連携を促す支援が求められる。
薬価制度や流通の抱える問題にも目を向けたい。
国は薬の公定価格を毎年のように切り下げ、特に大量に処方される後発薬は狙い撃ちにされてきた。値引き競争も激しく、メーカーからは「すぐに原価割れし、作れば作るほど赤字になる」と悲鳴が上がる。
コストを切り詰めるため、原料の調達を安価な海外産に依存する問題もある。経済安全保障の観点から、供給網や制度の見直しを求める声が出ている。
医薬品製造の技術は高度化している。必要な薬が患者に届くよう、旧態依然とした産業構造からの転換を急がねばならない。