「トクホに比べて容易」 小林製薬「紅麹」で揺らぐ機能性表示食品とサプリへの信頼(2024年3月30日『産経新聞』)

 

 小林製薬の(左から)「紅麹コレステヘルプ」、「ナイシヘルプ+コレステロール」、「ナットウキナーゼさらさら粒GOLD」 。「悪玉コレステロールを下げる」な

ど表示されている

 

小林製薬が製造販売した「紅麹(こうじ)」成分入りのサプリメントを摂取した人に健康被害が相次いでいる問題は、機能性表示食品に対する信頼を揺るがした。消費者庁は約6800の機能性表示食品すべての緊急点検を指示している。また、成分を濃縮させて作るサプリは過剰摂取の危険性も大きく、専門家は「取り締まる法整備が必要」と指摘している。

「用意するエビデンス(科学的根拠)が多く、申請に手間暇がかかるトクホ(特定保健用食品)に比べて(機能性表示食品は)容易に登録できる」

機能性表示食品の商品を手がける飲料大手の関係者はこう明かす。

平成27年に始まった機能性表示食品の制度は、健康に関する有効性や機能性について、消費者庁に届け出さえすれば、国の審査の必要なく表示できる。安全性や機能性の根拠を担保するのは企業だが、国のお墨付きが与えられている印象もあり、昨今の健康志向の高まりなどを受けて市場は急速に拡大してきた。

先に同種の制度として、臨床試験(治験)のデータや、消費者庁の審査・許可が必要なトクホが設けられていた。トクホに比べ、大きく規制緩和された機能性表示食品。民間調査会社の富士経済は「トクホからの切り替えやリニューアルが進んだ」といい、令和5年の機能性表示食品の市場規模は6865億円とトクホ(2690億円)の約2・6倍を見込み、市場は制度開始の平成27年から8年間で約22倍に急成長している。

また、機能性について表示できる言葉は企業側が比較的自由に設定できることから、関西の食品会社も「消費者に訴求しやすく、習慣的に使うリピーターを得られる」と話す。小林製薬の製品でも「悪玉コレステロールを下げる」などと記載されていた。

手軽に商品化でき、「比較的高価でも健康のためなら」と常用する客を囲い込める利点に多くの企業が関心を寄せており、3月時点で消費者庁に機能性表示食品を届け出ている企業は約1700社に及ぶ。

一方で、今回、健康被害をもたらしたのはサプリメントであることにも注目が集まる。サプリはカプセルや錠剤に成分を濃縮して作る分、毎日飲み続ければ体内に蓄積しやすいケースもある。食の安全に詳しい東京大学の唐木英明名誉教授は「過剰摂取になる危険性がある」と指摘する。

また、製薬業界の関係者は「機能性表示食品は健康に寄与しているように表示しながら、その製造工程の品質管理は医薬品に比べてずっと甘い」と話す。医薬品は、人為的なミスを防いだり、製品の汚染や品質低下を防止するために、厳しい製造・品質管理基準(GMP)を定めるが、今回のサプリは機能性表示食品だったため、大阪の原料工場はGMP認証を受けていなかった。

小林製薬は医療用医薬品を扱っていない。29日に開いた会見でも、GMPの認証取得を全ての工場で目指すような動きは「なかった」とした。製造工程の安全性の確保への取り組みが十分であったか、今後の検証が必要になる。

東京大学の唐木氏はサプリの問題点について「医薬品と違い、食品扱いとなっているから規制する法的な根拠がない」と指摘。「医薬品でも一般食品でもない中間のような存在のサプリを別のカテゴリーと位置づけ、安全性を取り締まる新たな法整備を急ぐべきだ」としている。(田村慶子)

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