中国政府は事件の死者は319人としているが、実際はこれをはるかに上回るとみられている。
共産党が、犠牲者の遺族らが求めてきた真相の公表や賠償に全く応じず、情報統制を徹底して事件の再評価につながる動きを封じ込めてきたのは遺憾だ。
中国で事件について知ろうとしてもインターネットで検索すらできない。事件の存在自体を知らない若者が増えている。遺族らの高齢化も進み、中国国内で風化が一層進むのは避けられない。
習政権は「国家の安全」を最優先し、ハイテク技術を駆使して国民を監視・管理するシステムを作り上げている。かつて国内では抗議活動が頻発していたが、今では当局に事前に把握され、人々が不満を表明することすら難しい。
党や政府への批判を放置すれば一党支配崩壊につながりかねないという危機感があるのだろう。
犠牲者の追悼集会が許されてきた香港でも、反体制活動を取り締まる国家安全維持法(国安法)が20年に導入されて以降、追悼活動は事実上禁じられた。
国安法を補完するため、今年3月には国家安全条例が施行され、追悼集会を主催してきた民主派団体の元幹部らが逮捕された。事件に関してSNSに「扇動的」な投稿をしたことが理由という。
共産党による統制強化を嫌って国内から人材が流出している。強権統治が続けば社会や経済の 閉塞へいそく 感が強まり、中国の長期的な発展の妨げになるのではないか。
国内の統制強化の一方で、中国は軍事力を拡大し、東・南シナ海などで現状変更を試みている。日本は米欧と協力し、中国に国際規範を順守するよう粘り強く働きかけていく必要がある。