車の認証不正に関する社説・コラム(2024年6月5日)

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記者会見で謝罪するトヨタ自動車豊田章男会長(3日、東京都千代田区
 
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認証不正問題で、トヨタ本社に立ち入り検査に入る国交省の職員=4日午前、愛知県豊田市

公道でのカーレースが売り物の…(2024年6月5日『毎日新聞』-「余録」)
 
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自動車の認証不正問題について記者会見するトヨタ自動車豊田章男会長=東京都千代田区で2024年6月3日午後5時20分、新宮巳美撮影

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日産の「スカイラインGT」、通称箱スカの内装を見るファンたち=岐阜県揖斐川町で2019年10月20日午前10時37分、渡辺隆文撮影

 公道でのカーレースが売り物のハリウッドの映画シリーズ「ワイルド・スピード」。カーマニアの心をつかみ、テレビアニメやゲームも作られる人気作品だ。多くの日本車が登場し、東京も舞台の一つになった

▲その影響も大きいらしい。車好きが自慢の愛車を持ち込む首都高の大黒パーキングエリア(横浜)に外国人観光客が押しかけている。お目当ての一つが自国ではめったにお目にかかれない旧型の日本車だ

▲米国では製造から25年を過ぎた中古車はクラシックカー扱いで現行の安全、環境基準が適用されない。そこで輸入した右ハンドルの古い日本車が高値で取引されている。箱スカと呼ばれた1970年前後のスカイラインGT―Rの相場は2000万円という

▲現在の車も半世紀後に「お宝」になっているだろうか。自動車王国を支える5社の認証不正が発覚し、国土交通省トヨタ本社を立ち入り検査した。量産の前提となる自動車の型式指定を取得するための認証試験で不正が横行していた

▲数年前には燃費データの改ざん問題もあった。不正に手を染めていない乗用車メーカーが見当たらないのが残念だ。ネジ一本おろそかにしない品質管理で信頼を築き上げてきた歴史にキズが付いた
▲各社トップは「安全性に問題はない」と口をそろえる。だが、ちょっとしたウソや法令違反が命取りになるのが世界標準である。「かつて高品質の日本車が世界を席巻した時代があった」。教科書にそんな歴史が載るような未来は見たくない。

車の認証不正 法令軽視はなぜ繰り返される(2024年6月5日『読売新聞』-「社説」)
 
 自動車の認証試験を巡る不正は、業界の盟主であるトヨタ自動車など、多くの主要メーカーにまで拡大した。原因を徹底究明して不正を根絶し、信頼回復を急がねばならない。
 国土交通省は、車や二輪車の量産に必要な「型式指定」を巡り、トヨタ、ホンダ、マツダ、スズキ、ヤマハ発動機の5社で、安全・環境性能に関わる不正行為が確認されたと発表した。
 不正は計38車種にわたる。現在生産中であるトヨタの「カローラフィールダー」などの6車種は、出荷の停止を指示した。
 認証試験の不正は、昨年、トヨタグループのダイハツ工業豊田自動織機で発覚した。これを受け、国交省は、自動車関連の85社に、過去10年間の不正の有無を調べ、報告するように求めていた。
 主要メーカーに不正が広がった衝撃は大きい。自動車は関連企業を含めて550万人の雇用を支えている。高い品質を武器に世界で顧客を獲得してきた日本車の信頼を大きく傷つけた。
 国交省は4日、道路運送車両法に基づき、トヨタ本社に立ち入り検査に入った。残る4社にも実施する方針だ。再発防止に向け、実態解明を進めてもらいたい。
 型式指定は、車の販売前に、安全性能などが基準を満たしているかどうかを国が審査する制度だ。指定を受ければ、国による1台ごとの検査を省けるようになる。
 ただし、メーカーが適正な試験を行うことが前提である。不正な試験を行えば、制度そのものの根幹が揺らいでしまう。
 メーカー側は不正を認めながら、なぜ安全性に問題がないと言えるのか。認証試験の基準はなぜ守られないのか。政府と自動車業界は背景を解明するべきだ。
 認証不正は、三菱自動車で8年前に発覚して以降、絶えない。不正の類型は多様化している。
 エンジンの出力データを書き換えた例が目立った一方、トヨタは、1・1トンの評価用台車を衝突させて安全性を確かめる試験で、より重い1・8トンの台車を使っていた。開発段階のデータを認証試験に流用していたという。
 メーカー側は、基準より厳しい試験と釈明するが、新車開発の競争が激しくなり、法規で定められた手順を省いたのではないか。
 自動車産業は電気自動車への転換など大きな変革期にある。開発が複雑化し、認証試験の制度が時代に即していないとの指摘もある。国際競争力の低下を招かぬよう制度の再考も課題になろう。
 

自動車メーカーは過信を捨て再出発を(2024年6月5日『日本経済新聞』-「社説」)
 
 この種の不正の病根はどこまで伸びているのだろうか。そんな疑念を持たざるを得ない事態が白日の下にさらされた。近年、自動車業界など日本の製造業で相次いで発覚する品質を巡る検査不正だ。
 3日にはトヨタ自動車、ホンダ、マツダ、スズキ、ヤマハ発動機の5社に関して、車両の量産に必要な「型式指定」に関する不正が明らかになった。4日に管轄の国土交通省トヨタの本社に立ち入り検査を行った。ほかの4社についても順次検査する方向だ。
 言うまでもなくトヨタやホンダは日本企業の代表格だ。これまで日野自動車ダイハツ工業などトヨタのグループ企業で不正が発覚していたものの、同社自体は安泰だと見なされてきた。
 消費者や関係者の信頼を裏切ったことを猛省すべきだ。自動車産業は日本の製造品出荷額の2割近くを占める。出荷停止が長引けば経済に悪影響を与えかねない。
 一方、品質不正と言っても悪質性の軽重は様々だ。今回発覚した行為の中には、あえて規定より難易度が高い検査を自主的に行った結果を反映させたものも含まれる。現場の担当者は自らより高いハードルを課し、品質を担保しようと考えたのかもしれない。
 だが、ルールはルールだ。業界の決まりごとより自社の方法が優れているというおごりはなかっただろうか。せっかくの企業努力がかえって信用を失う原因となった格好だが、皮肉な結果という言葉だけではかたづけられない。
 所定の手続きを無視するようでは、そもそも認証制度の意味がなくなってしまう。トヨタ豊田章男会長も3日の記者会見で「自動車メーカーとして絶対にやってはいけない」と悔やんだ。
 認証制度のあり方に時代遅れな面があるとの指摘も多い。そうだとしても、まずはルールの変更を堂々と訴えかけるのが筋だ。
 今回、5社で不正が発覚したきっかけは、国交省が求めた内部調査だった。三菱自動車で燃費データの改ざんが発覚した2016年以降、自社を顧みる機会は何度もあったはずだ。それでも病根をあぶり出すことはできなかった。
 「不正の撲滅は無理だと思う」(豊田氏)という発言もあったが、車造りのプロセスを管理する体制づくりや投資を怠ることは許されない。相次ぐ品質検査不正を教訓に、自動車産業は過信を捨てて再出発するべきだ。

自動車の認証不正 品質の信頼貶める行為だ(2024年6月5日『産経新聞』-「主張」)
 
 トヨタ自動車、ホンダなど国内自動車メーカー5社で自動車の量産に必要な「型式指定」の認証申請に関し不正行為があったことが明らかになった。
 不正があったのは、すでに生産を終えている車種も含め合計38車種におよぶ。国土交通省はこのうち3社で現在も生産されている6車種について出荷停止を指示した。
 不正を行っていたのはほかにマツダヤマハ発動機、スズキの3社だ。日本経済を牽引(けんいん)してきた自動車大手が車の安全を揺るがす不正行為を行ってきたことに呆れるほかない。各社は不正が行われた根本的な原因を究明し、再発防止に取り組む必要がある。そのうえで経営責任を明確にすべきである。
 国交省は4日、道路運送車両法に基づき、愛知県豊田市トヨタ本社を立ち入り検査した。他社にも順次検査に入り、再発防止を求める是正命令などの行政処分を検討する。
 型式指定を取得するには、決められた試験方法によって車両が安全・環境性能に適合していることをメーカー自らが確認し、国から認証を受ける必要がある。今回の5社は安全に関する試験で虚偽データを提出したり、決められた方法とは異なる試験を行ったりしていた。
 例えば電子制御によって作動させなければならないエアバッグをタイマーで作動するようにしていた。エンジン出力試験で狙った出力を得られず、コンピューター制御の数値を改竄(かいざん)したケースもあった。
 認証制度は車の品質を裏付ける根幹だ。法令を守らなければ車の安全に対する信頼は成り立たない。トヨタ豊田章男会長は会見で「(認証不正は)メーカーとしては絶対やってはいけない」と述べた。実効性のある措置を求めたい。
 自動車業界では今回の5社以外でも品質や安全に関わる不正が相次いでいる。世界中のユーザーに日本車が受け入れられてきた大きな要因は、商品の信頼性に対する高い評価である。認証不正はその強みを自ら貶(おとし)める行為だと認識すべきだ。
 国内自動車産業は製造品出荷額が50兆円を超え、関連産業には約550万人が従事する最大の基幹産業である。その競争力は日本経済を大きく左右する。各社はその自覚をもって信頼回復に努めなければならない。
 

「信用」ゆがめる負の記憶、トヨタなど検査不正(2024年6月5日『産経新聞』-「産経抄」)
 
サザエさん」は古くて新しい。テストで珍しくいい点数を取ったカツオは、家族の前で答案用紙を広げ、得意げに小遣いの値上げを迫る。不出来に終わった数多のテストを分厚い本の中に隠していることは、まだ誰も知らない。
▼フジテレビによれば、これがテレビアニメの第1作で、放送は昭和44年秋という。カツオ流の秘匿術は遠い日のわが身にも覚えがある。都合の悪いものは隠し、いいところだけを―。大人の社会にも、企業の風土にも通じる奥の深いテーマだろう。
▼「悪い知らせは、早く知らされなければならない」と言ったのは、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏である。悪い情報ほど早く吸い上げ、打開の手を打たねばならない。カツオ流で中身を膨らませても、隠したものはやがて紙の隙間からこぼれ落ち、企業価値を傷つける。
トヨタ自動車マツダなど自動車メーカー5社で、車の安全性に関わる試験の不正が見つかった。トヨタ傘下ではここ数年、ダイハツ工業などの不正が相次ぎ露見している。トヨタ本体が足元の悪い知らせを見過ごしていたのはお粗末に過ぎよう。
▼同社など3社が生産中の6車種は出荷停止となり、日本経済全体への悪影響も懸念される。「トヨタも完璧な企業ではない」とは豊田章男会長の弁だが、品質と安全性を売り物にして育てたブランドではなかったのか。世界的企業としての自覚さえ疑われる、寂しい発言である。
▼ものづくりに巣くう病はどこまで根深いのだろう。「製品は工場で作られ、ブランドは記憶の中でつくられる」。米国の商標デザイナー、ウォルター・ランドーの言葉である。経営幹部が軒並み頭を下げた会見の記憶は、日本の「信用」までゆがめそうで怖い。

自動車認証不正 「トヨタまで」の深刻さ(2024年6月5日『東京新聞』-「社説」)
 
 車の認証試験を巡る不正が、トヨタ自動車など大手5社に拡大した。国土交通省は生産中の6車種の出荷停止を各社に指示し、業界トップのトヨタ本社を立ち入り検査した。ルール軽視の体質が業界全体に広がっていることが明らかになり、日本車への信頼が失われかねない事態だ。各社は不正の原因を徹底して明らかにし、信頼回復を急がなければならない。
 トヨタの他に不正が発覚したのはホンダ、スズキ、マツダヤマハ発動機の4社。2022年以降にトヨタグループのダイハツ工業など3社で不正が相次いだことを受け、国交省がメーカー各社に調査を求めていた。
 トヨタの不正は6件。エンジンの出力試験で狙った数値が出るように制御ソフトを書き換えた悪質な事例もあった。国基準よりも厳しい条件で実施した試験データを使っていた例が多いとして、違反があった車種に使用上の安全性の問題はないとするが、ユーザーの不信は容易には払拭されまい。
 認証試験は、車の大量生産に必要な型式指定を受けるための制度だ。1台ずつ国の検査を受ける代わりに、自動車メーカーがブレーキ性能や衝突安全性などをテストして国のお墨付きを得ており、メーカーは不正をしないだろうという「性善説」に立っている。定められたルールを独自に解釈して違反すれば、制度そのものへの信頼が崩れてしまう。
 不正の背景には、短い開発日程の中で最終段階の認証試験がしわ寄せを受けている実態もある。トヨタ豊田章男会長は、制度の複雑さを指摘して「制度自体をどうするのかという議論になっていくといい」と述べたが、ルールを順守した上でなければルールを変える議論は成り立たない。真摯(しんし)な反省と不正の原因究明が最優先だ。
 グループ企業の不正に関し、豊田会長が「各社トップの相談役になる」と再発防止を誓ったのは、まだ1月のこと。その時点では既に、トヨタ本体の現場では不正の認識があったのではないか。それが一切トップに届かず、「知る限り不正は他にない」という会長の発言になったのだとすれば、社内の風通しの悪さは深刻だ。内部通報制度も機能しなかった。
 トヨタ以外の各社も含め、社内から「ものを言いづらい」空気を一掃しない限り、再発防止は難しいだろう。

教室の花瓶が割れたとする。学校でこの手の問題が起きた場合、…(2024年6月5日『東京新聞』-「筆洗」)
 
 教室の花瓶が割れたとする。学校でこの手の問題が起きた場合、担任の先生がクラス全員に目をつむらせて割った者に手を挙げさせるということが、昔はよくあった。「割った者は正直に手を挙げなさい」。今ではコントのネタだろう
▼「不正を行っていたのは誰ですか」。その問いかけにあの子も、この子も次々と手を挙げる。そんな寂しい場面を想像する。自動車・二輪車メーカーの「型式指定」を巡る不正申請である
▼昨年発覚したダイハツ工業豊田自動織機の不正を受けた国土交通省の調査に対し、5社が「実はうちも」とデータの虚偽記載や試験車両の加工などの不正を認めた。これが高い品質で世界の信頼を勝ち得た日本の自動車メーカーの実態とは情けないではないか
▼販売台数は世界トップで「成績優秀」、「不正はない」と胸を張っていた「トヨタ君」も申し訳なさそうに手を挙げているのをみればユーザーはショックだろう。2016年に発覚した三菱自動車のデータ改ざん以降、これで国内すべての乗用車メーカーが品質不正をしていたことになる
▼5社は申請に不正はあったものの、安全・環境基準は満たしていると説明している。言い訳にはなるまい。守るべきルールが勝手な理屈で破られた
▼さてもう一度、5社を「教室」に呼び、厳しく問わねばなるまい。なぜ不正を、再発防止にどう取り組むかを。