「健康で長生きする」ためには、何歳になっても社会との接点を持ち続けることが大事|WAmazing代表取締役 加藤史子さん|(2024年6月1日『magacol』)

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加藤 史子さん(48歳)
女性としてこれからのキャリアに悩むSTORY世代。’22年に女性活躍推進法が改定されてからはますます女性の活躍が期待され始め、徐々に女性管理職比率も高くなってきています。第一線で活躍している女性リーダーの方々にお話を伺うと、そこには、キャリアの狭間で自身の生き方を見つめ、可能性を信じてチャレンジする姿がありました。今回ご登場いただくのは、WAmaging株式会社 代表取締役CEO加藤史子さん。年齢を重ねるごとに輝き続ける理由。それは、常に自らの“やりたいこと”を求め続けてきたから。そんな彼女のSTORYをご紹介します。(全2回の2回目)
WAmazing株式会社 代表取締役CEO
慶應SFC卒業後、リクルートにてインターネットでの新規事業立ち上げに携わった後、観光産業と地域活性のR&D 部門じゃらんリサーチセンターに異動。主席研究員として調査研究・事業開発に携わる。2016 年 7 月、訪日外国人旅行者による消費を地方にもいきわたらせ、地域の活性化に資するプラットフォ-ムを立ち上げるべく 2016年7 月、WAmazing株式会社を創業。2年半以上に渡るコロナ禍期間中を乗り越え257名(2023年 10月1日時点)の組織で、日本のナンバーワン外貨獲得産業になりうるインバウンド市場で日本経済の再興・地方創生を実現するプラットフォームサービスを作るべく挑戦中。
起業してなくなったこと…それは週末明け、「月曜日の憂鬱」
STORY編集部(以下同)――2016年7月にWAmazing株式会社を創業。40歳での「起業」はかなり勇気がいることだったのでは?
起業しようと決断するまでには1年ぐらい考え、悩みました。18年間一企業にしかいませんでしたので、実はかなり怖かったです。それでもやってみようと思ったのは、一度「やれるんじゃないか」と思ってしまったら、トライしないといられない性分だったから。私の中に「残る」という選択肢がなくなってしまったんです。もう羽が生えてしまった感じですよね。飛ばずにはいられなくなってしまったんです(笑)。
――起業したいという気持ちは元々お持ちだったんでしょうか?
社長になりたい、起業したいという気持ちはありませんでしたが、とにかく事業を作るのは好きでした。リクルートでも新規事業に携わることが好きでしたし、企画するのも好きでしたね。そういった自分の中に溜め込んできた事業を、今度は自分で、起業してやってみようと思うようになったのは、外部環境の変化が大きいと思います。
――外部環境の変化とは?
世の中に、スタートアップ企業に出資するというベンチャーキャピタルなどが増えてきたタイミングだったんです。リクルートから出資を受けるのではなく、外に飛び出した40歳の私に、「やらせてみよう」という形でオープンソースから人材もお金も集めた方が、やりたい事業ができるんじゃないかと思ったんです。
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――大きな会社のバックアップだったり、関係性の出来上がったスタッフと新規事業を立ち上げる方が楽なのではないかと思ってしまいますが……。
きっと落ちるだろうとは思いつつも、WAmagingでやりたいと思っていたことを、リクルートの新規事業コンテストに出してみたんです。リクルートの新規事業コンテストって、すごくレベルが高い! 多分、コンテストの上位に入るような人たちは、やりきれば結果を必ず出せる人たちなんですよね。私の出した案件は残念ながら落ちてしまいました。ただ、落ちるということは、今、この事業にリクルートとしては出資できないし、インバウンドには注力しないという判断だったと思うんです。タイミングなんですよね。ただ、リクルートからそういう判断が下されても、私はこの事業を外に飛び出してでもやってみたかったんです。
――加藤さんの頭の中にあった、WAmagingのコンセプトとは?
構想時からインバウンドをターゲットにしたものでした。インバウンドの五大消費というのが、買い物費、宿泊費、飲食費、交通費、そしてアクティビティサービスその他というのがあるんです。市場としては、その他が2000億円ぐらいで、買い物が一番大きい1.7兆円ぐらい、宿泊が1.4兆円で飲食が1兆円、交通費が5000億円。それらをワンストップで、なおかつオンラインで手配できる日本に特化したインバウンド向けのインターネットの旅行会社を作ろうと考えたんです。まず重要になってくるのがマーケティング。ユーザーをどうやって集めるかということですよね。あるデータによると97%の訪日外国人は飛行機で空港から日本に入国する。それならば、パチンコ屋さんが駅前でティッシュを配布するように、空港で彼らが欲しいものを無料で配ろうと考えたんです。そこで、観光庁から公開されているデータを見ると、彼らが日本に来て必要だと考えるもの、それは通信のためのSIMカードでした。そこで、SIMカードを空港で無料配布することに。その無料SIMカードを手に入れるためには、WAmagingのアプリをインストールし、個人情報登録しなければいけないというモデルにして、ユーザーを集めながら、同時に買い物や宿泊予約の事業を作っていくという構想を立てたんです。現在は、当初の構想の通り、事業を進めています。
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WAmazingとパナソニック コネクトにより開発された、顔認証で免税資格を確認し無人で商品を受け渡す自動販売機。この商品受取ロッカーを全国に設置し、訪日観光客向けの免税オンラインショッピングサービスを展開。
訪日観光客は「WAmazing Shop」で商品の購入を予約。駅や空港内などに設置されたロッカー型の自動販売機で帰国前に受け取ることができる。受取ロッカーでは、パナソニック コネクトのセンシング技術を活用した顔認証による本人確認と、パスポートによる免税資格確認を行い、無人での商品受け取りが可能。
――構想を形作るにあたって、一番大変だったこととは?
やはり資金ですよね。45億円の資金調達を行ったんですけど、実は、その最中に大きな事件、コロナが猛威を振るったんです。
――観光業にとっては、大きな打撃ですよね……。
これは本当に大きな事件でした。ただ、当時会社には既に100人ほどの従業員を抱えていたんです。雇用を守りつつ、株主さんにインバウンド需要は必ず回復するということを信じてもらいながら資金調達する。これはなかなかハードでした。
――出口の見えないコロナ禍で、常に心がけていたこととは?
まず社員を不安にさせてはいけないと思っていたので、真っ先に誰一人解雇はしないということを伝えました。それと、今はゼロで、いつ回復するかわからないけれども、構造的にインバウンド需要っていうのは今後増えて、必ず市場が戻ってくるっていうのは信じてもらっていいということをデータを見せながら、社員に説明するようにしました。私自身、リクルート勤務時は、じゃらんリサーチセンターに在籍し研究員だったので、未来予測データというものをかなりチェックしていて、インバウンド需要が必ず回復すると思っていたので。
――多くの人が色々な意味で不安を抱えていたコロナ禍で、社員の皆さんは加藤さんの頼もしい言葉が心強かったでしょうね。
夢を語るのはいいけれど、衣食住足りてこその夢。弊社には外国人スタッフが3割4割いて、支出の大きい部分が家賃だと思うんです。日本人スタッフとは違い、実家に身を寄せるってこともできないですよね。なので、雇用調整助成金を使うにしても、なるべく給料の手取りが減らない形に。辞めるのは個人の選択の自由だけれども、会社から整理解雇はしないと、2020年4月の時点で宣言していました。
――企業に属することと、起業することの大きな違いとは?
自由度ですね。自由と責任はセットですけど、最終的には何でも自分で決められるので、こんなに楽しいことはないです。リクルート時代、ものすごく仕事を楽しいと思っていたし、子育てと仕事の両立で、結構時間的体力的に厳しかった時でも、辞めたいなんて思いませんでした。ただ、今思い出すと、出産後、復職して最初一年ぐらい子どもが病気になったり、保育園に預けて泣かれたりすると辛かった。もちろん親子共に、その状況に慣れてきたら辛さも和らいできましたが、それでも日曜日の夜ってちょっと憂鬱だったんですよね。明日から会社だなって、ちょっと頑張る感じ。それが、起業してなくなったんです。コロナ渦だろうとコロナ明けだろうと、月曜日の憂鬱が完全になくなった。本当にやりたいことをやっていたからなんでしょうか、自分でも驚きました。
――何かに挑戦することに迷っている人に向けて、伝えたいこととは?
私が起業したのがちょうど40歳。そして今、48歳ですが、まだまだやれると感じています。一度きりの人生の中で、38歳から50歳というと、大分お子さんの手が離れてきますよね。そのときにもう一度仕事で自分が何を成し遂げたいのか考えてみてもいいのかなと思います。もし仮に頑張ってみて失敗したとして、何を失うんだろう? っていう。女性の方が身体が丈夫だし、パワーが有り余っている!
――確かに、男性より女性の方が 寿命も長いですよね。
面白いデータがあって、男性と女性の寿命って10年ぐらい違うんですけど、健康寿命だと3、4歳しか違わないんです。つまり、男性がシャキッと生きてる、健康寿命が長いということですよね。ここからは私の仮説なんですけど、理由は社会との接点じゃないかなと思うんです。もしかしてミドルエイジ以降の女性は、健康に幸せに長く生きようとしたら、仕事をしていた方がいいんじゃないかって。仕事を持つ女性たちは、40歳手前くらいまでは、会社員として成果を出さなきゃいけないし、子どもも育てなきゃいけない、旦那の面倒も見なきゃいけない、ハァ~という感じでとても忙しい! でも、その時期を超えて、まだまだやれる! という状態で生き生きと、美しく健康に生きたいとなったら、これは多分仕事ですね。焚き付けちゃった感じですが(笑)、私はそう感じています。
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友人の女性起業家が開発・販売しているCBDドリンク。ノンアルでリラックスしたい時に愛飲しています。
――そういうお話をされている時の加藤さん、なんだかキラキラしています! お忙しいとは思いますが、プライベートでチャレンジしてみたいことはありますか?
恋人、パートナーが欲しいんです。
――そうなんですね!
実は、42歳で離婚をして、今は独身。理想は、人としてリスペクトできる人と、適度な距離感のある関係。でもいざという時には相談できる、そんなパートナーがそばにいてくれたら嬉しいなって思います。起業直後、コロナ禍になって、そんなことを考える余裕はなかったけれど、今はそんな風に思えるようになってきました。
フランクで、チャーミング! そして、お話上手な加藤さん。全ての質問に対しての回答はわかりやすくクリアなのは頭の中がきちんと整理されている証。そんな魅力的な女性が、恋までしてしまったら……。ますます輝き続ける加藤さんに要注目です。
撮影/BOCO 取材/上原亜希子