【証言・官房機密費】選挙の陣中見舞いとして渡された機密費は報告書に記載されず… 自民党派閥の裏金処理と同じ構図(2024年5月31日『NEWSポストセブン』)

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岸田文雄・首相は機密費をどう使っているのか、質問した(イメージ)
 毎月約1億円、年間約12億円もの税金の使途が“ブラックボックス”になっている──それが「官房機密費」だ。国会で「政治とカネ」の改革を掲げて必死にアピールする岸田文雄・首相も、そこには決して手をつけようとしない。そうしたなか、機密費を管理する立場にあった元官房長官らが本誌・週刊ポストの取材に重い口を開いた。
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シラを切る理由
「選挙応援に行って機密費から100万円渡した」
 官房長官経験者が中国新聞(5月10日付)のインタビューに匿名ながらそうした趣旨の発言をしたことが発火点だ。
 同紙は自民党が政権に返り咲いた直後の2013年参院選の際、東日本のある選挙区の応援に入った安倍晋三・首相と個室で面会した候補者が安倍氏からA4判の茶封筒を受け取り、中にあった白い封筒には100万円が入っていたという証言を報じている。
 さらに本誌は、機密費の決裁権を持つ官房長官経験者から重大な証言を得た。
「陣中見舞いを(報償費から)出すということは自分の経験でもあった。(鈴木馨祐議員は『選挙目的に使うことはない』と発言したが)彼は官房副長官の経験もないし、報償費の使い道について断言できる立場ではないでしょう」
 官房長官経験者への取材に協力したジャーナリスト・相澤冬樹氏が語る。
「これだけ証言が重なれば、機密費を選挙にも使っていたという事実は動かしようがありません。鈴木(馨祐)議員の発言は勇み足ですね。記録も残さず永遠に使い道がわからないという機密費のあり方自体を見直すべき時だと思います」
 では、岸田首相は機密費をどう使っているのか。
「政権の命運」がかかる選挙と位置づけられていた4月の衆院補選で、岸田首相は自民党が唯一候補を擁立した島根1区に、異例の2回も応援入りした。結果は敗北したが、その裏では、自民党内にこうした見方がある。
「総理にとって島根補選は負けられない選挙だった。慣例通りであれば、陣中見舞いを持っていったはずだ」(閣僚経験者)
 落選した島根1区の自民党公認候補・錦織功政氏の選対幹部を務めた地方議員は「補選の資金」についてこう語った。
「補選なので、今までの通常の衆議院の選挙よりも色んな意味で活動が大きくなった。予算的には通常の衆議院選挙よりもかかっているだろうとは思っています。じゃあ、その原資がどこから出ているのかは私レベルでは承知してない」
 首相からの陣中見舞いが候補者と1対1で会った場面で渡されるものなら、陣営の選対幹部が知らないのは無理もない。
 そこで候補者だった錦織氏を直撃すると、「私からコメントすることはございません」という回答だった。
 候補者は選挙の陣中見舞いとしてもらった寄附は、選挙管理委員会に提出する選挙運動費用収支報告書に記載しなければならない。しかし、中国新聞が報道したように、過去、機密費から渡された陣中見舞いは同報告書に記載しないで“裏金”にする処理が取られていた。自民党派閥の裏金問題と同じ構図だ。
 解散・総選挙を視野に入れている岸田首相は、これから選挙に多額の資金を使うことになる。そこに機密費を裏金として注ぎ込みたいから、機密費が「選挙資金」に使われてきた問題に向き合わず、シラを切っているという疑念も浮かぶ。
 掲載の図は判明している範囲の機密費の流れを示したものだ。
 官房機密費は目的別に「調査情報対策費」「活動関係費」「政策推進費」に分けられ、月約9000万円の「政策推進費」が官房長官のサインで支出できるカネだ。一部は官房長官から首相に上納され、国会対策費として自民党幹事長など党役員にも渡されるが、受け取った側は何に使ったか領収証を出す必要がない。
 内閣総務官室に岸田内閣の機密費の使途を質問すると、「報償費は国の機密保持上、その使途等を明らかにすることが適当でない性格の経費として使用されており、個別具体的な使途に関するお尋ねについては、お答えを一切差し控えております、と官房長官が答弁されているとおりです」と紋切り型の回答が返ってきた。
週刊ポスト2024年6月7・14日号
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