古里で出産した3日後、拒否すらできなかった強制不妊手術 聴覚障害ある福井出身(2024年4月15日『福井新聞』)

1974年に福井県内で強制不妊手術を受けた加山さん(仮名)。「国に謝ってほしい」と繰り返した=2月20日、大阪市

 古里の福井に帰り、長男を出産して3日後、へその下あたりを切られる手術を受けた。1974年のことだ。聴覚障害者の70代女性、加山さん(仮名)=大阪府=は「何の手術かは分からず、拒否することはできなかった」。不妊手術だった。下腹部には4センチの傷跡が今も残る。

 福井県内で生まれた加山さんは生後約50日で発熱し、聴覚障害者になった。小中高校はろう学校に通った。寄宿舎生活で、夏休みと冬休みの年2回実家に帰った。「意思疎通ができず、父母から冷たく扱われた。暴力も振るわれた。だから、家ではじっとしていることが多かった。実家に帰るのは嫌だった」

 高校卒業後、寮に住みながら3交代制の織物工場で働いた。学校の教員の紹介で、74年に同じ聴覚障害者の男性と結婚した。男性が優しかったこともあるが、とにかく両親から離れたかった。

   ×  ×  ×

 夫の父の仕事の関係で結婚後は大阪に引っ越した。妊娠9カ月になり、福井に戻って出産した。両親にとっては初孫だったが、うれしそうではなかった。ずっと怒っているような顔をして話しており、加山さんはのけ者にされているように感じた。

 無事出産し、その3日後に手術を受けた。麻酔が切れると、激しい痛みを感じた。「死にたい」と思うほどの痛みで、看護師から何度も痛み止めの薬をもらった。出産の喜びは吹き飛んでいた。

 しばらくして母から「子どもは1人だけよ」と言われた。その時は分からなかったが、後になって不妊手術だと知った。母は手術に同意していた。

 夫は「子どもは3人ほしい」と言っていたから、ひどくショックを受けていた。大阪で子どもを産んでいたら、不妊手術を受けることにはならなかったかもしれない。福井で産んだことを後悔している。

 生まれた長男は健常者だった。 

 旧優生保護法(1948~96年)下で、障害者らに不妊手術が強制された問題を巡り、福井県内では少なくとも75人に手術が行われた。このうち加山さんのように「本人の同意なし」とみられるケースは36人で、全体の48%を占める。

 旧法は3条で本人や配偶者、親族に遺伝性とされた身体疾患などがある場合、本人や配偶者の同意を得て不妊手術を行うと規定。12条では本人の同意がなくても、保護者の同意があれば強制手術を認めていた。県衛生統計年報によると、74年に12条による女性への手術が1件実施されていた。

 2018年1月30日、知的障害を理由に不妊手術を強制された宮城県の60代女性が「重大な人権侵害なのに、立法による救済措置を怠った」として、国に1100万円の損害賠償を求める訴訟を仙台地裁に起こした。旧法を巡る国家賠償請求訴訟は初めてだった。

 このニュースに触れ、加山さんは初めて裁判を考え、19年12月に大阪地裁に提訴した。提訴の理由について「お金がほしいわけじゃない。国に謝ってほしいだけなんです」と繰り返した。

連載「法の下の強制不妊~福井・声を上げる障害者」

 強制不妊問題に関する国会の調査報告書では、全国で2万4993人に対し手術が行われた。福井県出身の被害者の証言を通し、法の下で何が行われてきたのか、実態に迫る。

【2】手術の診断書 40超の病院に断られ

【3】「元の体に戻して」 家族も分断「罪深い」

【4】国総括の好機逃す、「当時は適法」一点張り

【5】障害者の強制不妊、同意した親の心情

 

===================================

福井県内で強制不妊手術の75人は大半が20~30代女性 1996年まで続いた旧優生保護法下で(2024年4月10日『福井新聞』)

 

 旧優生保護法(1948~96年)下で障害者らに不妊手術が強制された問題を巡り、福井県内で手術を受けた75人のうち、20~30代が94.7%を占めることが、福井新聞の調べで分かった。手術を受けたのはほとんどが女性で、被害者の救済法に基づく一時金320万円の支給認定を受けたのは4人(4月9日時点)。

 旧優生保護法の4条と12条は、本人に知的障害や精神疾患などがある場合、手術が必要と判断した医師が都道府県の審査会に申請し、決定を受ければ、本人同意がない強制手術を認めていた。

 県衛生統計年報には「優生手術」という項目で、手術を受けた人数が毎年、該当条項、年齢階層、性別ごとに記載されている。

 年報によると、本人の同意を不要としている4、12条に基づく手術を受けたのは36人、同意が前提の3条に該当するのは39人だった。75人のうち女性は73人。

 年齢別では20代が35人、30代が36人、40代が3人、不詳1人だった。20~30代が9割以上を占めた。国に損害賠償を求めて裁判を行っている福井県出身で大阪府在住の70代女性は、この中に含まれるとみられる。

 年報によると、手術は51年から記録が残っており、最も多いのは62年の18人(いずれも4条)。次いで94、95年の各10人(いずれも3条)、51年の9人(いずれも3条)が続く。

 ただ、年報に統計資料の記載がないケースも複数あり、実際に県内で手術を受けた人数はさらに多いとみられる。

連載 法の下の強制不妊~福井・声を上げる障害者

 強制不妊問題に関する国会の調査報告書では、全国で2万4993人に対し手術が行われた。福井県出身の被害者の証言を通し、法の下で何が行われてきたのか、実態に迫る。

【1】出産3日後に手術 ただ国に謝ってほしい

【2】手術の診断書 40超の病院に断られ

【3】「元の体に戻して」 家族も分断「罪深い」

【4】国総括の好機逃す 「当時は適法」一点張り

【5】身内が手術を提案 人権意識、家族も低く