小池百合子都知事が全国をリードした「コロナ休業協力金」 「2兆円」の効果はまだ見えない〈検証小池都政〉(2024年5月29日『東京新聞』)

 2020年以降の新型コロナウイルス禍で、休業や時短営業に応じた飲食店などに支払われた「感染拡大防止協力金」。東京都が先鞭(せんべん)をつける形で全国に広がった。膨大な予算が投入され、都が支給した総額は約2兆円に上る。その効果は、感染抑止に意義があったとの評価の一方で「補塡(ほてん)にならなかった」との声も。次の感染症禍が来たときにも、同じ手を打つのか。検証は、いまだなされていない。(渡辺真由子)

 

 

◆慎重意見を押し切り政治決断
 「早期の感染拡大の収束につなげることができる」。感染拡大が日に日に深刻となっていた2020年4月、小池百合子都知事は会見で、休業への協力を呼びかけるとともに、都独自の協力金導入を表明した。
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「感染拡大防止協力金」960億円を含む補正予算案を説明する小池百合子知事=2020年4月15日
 要請に応じた事業者に、当初は一律50万円、その後は売上高などに応じて1日最大20万円を支給した。莫大(ばくだい)な予算がかかるため、政府や都庁では「休業要請だけで自主的に休むのでは」「感染拡大がいつまで続くか分からない」と慎重意見も根強かった。しかし小池知事は「インセンティブがなければ実効性を保てない」(元都幹部)と政治判断を下す。自治体の貯金にあたる財政調整基金を取り崩し、都単独では約1445億円をつぎ込んだ。
◆「命守った」「補塡にもならず」
 協力金を巡っては、財政力に劣る他道府県からは国の財政支援を求める声が強まり、後に、国の地方創生臨時交付金を財源とする枠組みで全国に波及することになった。新宿区で飲食店を経営する50代男性は「要請に応じるきっかけになった。協力金なしでは閉店していたかも」と振り返る。都幹部も「命を守ったお金だった」と強調する。
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東京・新橋の飲食店に張られた営業時間短縮の張り紙=2021年1月、東京都港区で
 ただ「金の蔵」などの居酒屋チェーンを運営する「三光マーケティングフーズ」の岡安史人執行役員は「協力金は補塡にもならなかった」と語る。協力金の位置づけは、損失に見合った「補償」ではなく「協力への謝礼」(都産業労働局)。都心の大型店舗では賃料にさえならなかったが、一方で、個人の小規模店舗では通常の売り上げ以上に受け取れたケースも指摘された。「飲食店へのバラマキだとの批判もあった。(命を守る上で)どれだけの効果があったのか知りたい」と岡安さんは言う。
 「コロナ対策は同時に複数の施策が実施されており、単独の施策の検証は難しい」。都の担当者はこう語るが、最終的な支給額は国財源を含め計1兆9625億円で、都のコロナ対策費の実に約3割を占める。
◆教訓を導き出す役割がある
 新型コロナの社会経済への影響に詳しい東京大大学院経済学研究科の仲田泰祐准教授は「感染者数などと異なり、失業率など月単位の統計が多い経済分野ではコロナ対策の評価は難しい」としつつ「宣言の有無や協力金の多寡だけでなく、感染拡大の恐怖心効果も人流抑制や閉店判断に影響を与えたと考えられる」と指摘する。
 コロナ禍のような感染拡大時に、飲食店などへの金銭給付はどうあるべきか、そもそも必要なのか。全国をリードした東京だからこそ教訓を導き出す役割があるのでは。仲田准教授は「評価や分析を投げ出すのではなく、現場の生の声も含めて評価や検証をしていくことはできる」と提言する。
 東京都のコロナ対策 2019〜23年度で計7兆2000億円を予算化。飲食店や事業者支援では休業・時短営業への協力金のほか、家賃支援、感染防止設備導入補助、業態転換支援などの施策を実施した。感染第1波の20年度には一時、貯金に当たる財政調整基金を8500億円以上取り崩し、残高は前年度の10分の1を切った。一方、都は、医療体制充実なども含めた全体の対応により、人口100万人当たりの累計死者数は、経済協力開発機構OECD)加盟国と比較すると、ニュージーランドに次いで低い水準(578人)に抑えられたと総括している。