『鉄腕アトム』の「電光人間の巻」に「電光」なる透明ロボット…(2024年5月29日『東京新聞』-「筆洗」)

 『鉄腕アトム』の「電光人間の巻」に「電光」なる透明ロボットが出てくる。生まれてまもないばかりで善悪の区別を教えられていないところを悪漢、スカンク草井に盗み出され、悪の手先となってしまう
キャプチャ
▼「ボクオヤブンニイイツケラレタコトダケシカシラナイノ」-。スカンクに命じられたまま銀行強盗を手伝う。お茶の水博士がいう。電光は決して悪いロボットではないが、「恐ろしいのはスカンクのいうことを正しいと思っていいなりになることです」
人工知能(AI)を悪用した事件に罪なき「電光」が浮かんだ。警視庁は対話型生成AIを使ってコンピューターウイルスを作成したとして川崎市の男を不正指令電磁的記録作成容疑で逮捕した
▼ランサムウエア(身代金要求型ウイルス)でカネを稼ごうと設計情報を複数のAIに回答させて実際に作成していたという
▼「電光人間の巻」の発表は1955(昭和30)年。AIがまだ存在しない時代からその悪用をどう防ぐかはSFの大きなテーマだったが、今や、現実として対策を急がねばならない時代となっているのだろう。オヤブンにイイツケラレタとAIが不届き者に悪知恵を授けてしまう現実に背筋が凍る
▼漫画では「電光」にアトムが人助けの模範を示し「ね、いいことってすてきだろ」と、根気よく教えていた。AIを悪用させない効果的な方法を探したい。